三浦知良「もっとうまくなって帰って来たい」 =コート内外を魅了したFリーグデビュー戦
三浦1人が来るだけで「全く違うゲーム」に
フットサルのFリーグで北海道の一員として出場した三浦。得点はならなかったが、観客を沸かせるプレーを見せた 【写真は共同】
試合前、会場MCが興奮した声で叫んだ。
フットサルのFリーグ第23節、エスポラーダ北海道と府中アスレティックFC戦。本来なら、9位(北海道)と5位(府中)のチーム(第22節終了時点)による「何でもない」試合である。その試合会場が「日本で一番熱い場所」になってしまったのは、言う間でもなく、この男がいたからだ。
“カズ”こと三浦知良。J2横浜FCに所属する44歳の現役最年長Jリーガーであり、日本の国民的英雄でもある三浦が、1試合限定でFリーグに出場することになったのだ。「カズ、フットサル参戦」のニュースはスポーツ新聞の一面を飾り、フットサル挑戦までの道のりがテレビで特集され、チケットは前売り完売。ホーム&アウエー戦ではリーグ史上最多となる5368人のファンが詰めかけ、試合会場の「北海きたえーる」は異様な熱気に包まれた。
三浦1人が来るだけで「全く違うゲーム」(府中・伊藤雅範監督)になってしまう。あらためて、その絶大な人気と影響力を証明したが、ことフットサルをプレーすることに関しては、懐疑的な見方をする人も少なくはなかった。三浦の“本業”はあくまでもサッカー選手である。ブラジル時代にフットサルをやっていたと報じられたが、本格的にプレーした経験はない。そんな三浦が、ぶっつけ本番の状態で良いプレーができるのか。
「チームに合流したのも昨日ですし、合わせる時間もなかったので、期待もあったし、不安もあった」という中でスタメン出場を果たした三浦は、フットサルのピッチでも確かな存在感を放った。
三浦のポジションは、サッカーのFWにあたる「ピヴォ」だった。フットサル選手の中では177センチと大柄な体格になる三浦が前線でボールを受けることで、北海道は攻撃の起点を作り出すことができていた。前を向いてボールを持ったときには、ピッチが小さく相手との距離が近いフットサルに合わせ、またぐ幅を小さくしたシザーズフェイントを繰り出して会場を沸かせた。
監督に助言、貪欲に勝ち点3を目指した
とはいえ、試合前から、三浦は自らのゴールよりも、チームの勝利への思いを強調していた。「昨年3月のチャリティーマッチのときのように、ゴールを決めたらカズダンスは踊るのか?」と聞かれたときも、「何も考えていない」と即答。この試合は三浦の参戦によって大きなスポットライトが当たっているが、あくまでも公式戦の1試合という位置づけだ。自分自身のエゴよりも、チームの勝ち点3を優先すること。それこそが三浦のこの試合に対するスタンスだった。
三浦としても「ゴール」が期待されているのは重々承知。だからこそチーム最多となる5本のシュートを打ち、止められれば悔しさをあらわにした。それでも、3−2でリードして迎えた試合終了間際のタイムアウト。北海道・小野寺隆彦監督が三浦をピッチに残そうとすると、三浦は「前半も残り40秒ぐらいでやられていたので、ああいうことが起こると思ったから」と自分から「監督が代えたかったら代えてくれ」と交代を要求。37歳と年下の小野寺監督が自分に「気をつかっている」と感じたからこその勝利への助言だった。
3−2のスコアでタイムアップした瞬間、三浦はベンチの選手や監督、コーチたちと抱き合って喜んだ。1試合限定出場という中で、自分のプレーを出しながら、チームに勝利をもたらすことは決して簡単ではない。大きな注目の中で結果を出した三浦には、「さすが」という言葉以外にない。