三浦知良「もっとうまくなって帰って来たい」 =コート内外を魅了したFリーグデビュー戦

北健一郎

Fリーグのピークではなくスタートに

 そもそも、三浦にとって今回の挑戦は極めてリスクが大きいものだった。もしも、フットサルで全く輝くことができなければ、サッカー選手として築き上げてきた“カズブランド”に傷をつけることにもなりかねない。

 だが、そういったリスクを考えても、三浦がFリーグに挑戦しようと思ったのには、大きく2つの理由があると思う。一つは三浦が何度も語ったように注目を集めることで「フットサルをもっと盛り上げる」ため、もう一つはサッカー選手としてのレベルアップ、要は「自分のため」である。

 今回、三浦が来たことによって、これまでのフットサル界では考えられなかった現象が次々に起きた。普段全く興味を持っていない人ですら、テレビで「フットサル」や「Fリーグ」というフレーズを耳にする機会も多かったのではないだろうか。また、生中継されたことで、初めてフットサルの試合をちゃんと見たという人も多かったに違いない。

 三浦をきっかけにフットサルに触れた人が、自分もやってみようかなと思ったり、面白そうだなと思って会場に足を運ぶ。そういった波及効果は計り知れないものがある。しかし、三浦は前日練習終了後、こうくぎを刺すことも忘れなかった。

「明日は明日できっかけになればいいですけど、明日ですべてが変わるわけありませんから。そのへんは冷静に、長くいろいろな人が関わっていけるように、まずは明日がスタートかなと思います」

 フットサル、Fリーグに関わる人間は、三浦のこの言葉を受け止め、次の行動を起こしていくことが大事になる。三浦が来たことをFリーグのピークにするのではなく、スタートにする。そうしなければ、三浦参戦は文字通り「1日限りの夢」で終わってしまうだろう。

来年も見ることはできるか

 試合終了後、三浦は会場内のインタビューで小野寺監督に「またやりたいです!」と言われると、「もっとうまくなって帰って来たいと思います!」と返した。この言葉にこそ、三浦参戦の本当の意図が隠れているように思う。サッカー選手として、自分の引き出しをもっと増やすために、フットサルという新しいジャンルのエッセンスを取り入れる。フットサル界の救世主的な扱われ方をしているが、実は三浦にとって、今回の参戦は「自分のため」という理由が最も強かったのではないだろうか。

 来年もまた同じように三浦がFリーグに参加するかは定かではない。しかし、本人はサッカーよりもボールに触る機会が多く、ゴールをすぐに狙えるフットサルの面白さを感じた様子だ。ちょっと「上から目線」かもしれないが、来年もっとうまくなった三浦のプレーを見られることを楽しみにしたい。

<了>

「なぜボランチはムダなパスを出すのか?〜1本のパスからサッカーの“3手先”が見えてくる〜」

北健一郎著/白夜書房 ISBN978-4861918339 【白夜書房】

 ボランチ――。
 ポルトガル語で「舵取り」を意味する、このポジションはサッカーで最も重要な役割を担っている。しかし、実際にボランチのプレーがクローズアップされることは多くはない。なぜか? それは「ボランチの見方」がサッカーファンに浸透していないからだ。
 ほんの2、3歩のポジション移動、一見無駄に見えるパス交換、パスを出す前の体の向きなど、普通に見ているだけでは気づかないプレーで、中盤を支配できるかできないかは決まる。
 この本ではシャビ、遠藤保仁など名手と呼ばれる選手をサンプルにしながら、ボランチの奥深さについて解説する。「サッカーを見る目」をレベルアップさせ、「サッカーをより深く語れる」ようになる1冊だ。

■目次
第1章 『ボランチのプレーを読み解く「10」の新常識』

第2章 『ストライカー目線のボランチ論』

第3章 『サイドバック目線のボランチ論』

第4章 『現代サッカーを動かすボランチたち』

第5章 『最終チェック・サッカーの"3手先"が見えるようになる』

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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