札幌山の手が苦しみながらも2連覇を達成 さらに進化を見せた長岡萌映子=高校選抜バスケ

舟山緑

大会を通じて苦しみながらも王者の意地を見せ、見事に2連覇を成し遂げた札幌山の手 【加藤よしお】

 7日間にわたって熱戦を繰り広げた第42回全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会(以下ウインターカップ、23日〜29日)。女子は、抜群の得点能力をもち、ロンドン五輪アジア予選(8月・長崎)でも果敢なプレーを見せた長岡萌映子を擁する札幌山の手(北海道)が2年連続2回目の優勝に輝いた。2位は初の決勝進出となった山形商(山形)。3位は桜花学園(愛知)、4位岐阜女(岐阜)という結果になった。今大会は夏の高校総体(以下総体、8月・秋田)優勝校・金沢総合(神奈川)と準優勝校・大阪薫英女学院(大阪)がともに準々決勝で敗れる波乱の大会でもあった。

札幌山の手にとって転機となった準決勝

 今大会、女子で最も注目されたのは、日本代表でもある長岡萌映子が、札幌山の手を2連覇に導くことができるかだった。その図抜けた得点能力の高さは、2年次から証明済み。180センチでゴール下のシュートはもちろん、ドライブインも3点シュートも兼ね備えたオールラウンダーだ。今季は高校生で唯一、日本代表に選出され、8月のロンドン五輪アジア予選を戦った。中国との準決勝では堂々のスターティングメンバー入り。物おじしないアグレッシブなプレーで、最年少ながらチームを牽引(けんいん)した。

 それだけに周囲の期待が高まっていたが、上島正光コーチは「今年は長岡一人のチーム。優勝できるだけの力はない」と冷静に分析していた。司令塔となるガードが弱く、ディフェンスにも弱点を抱えていた。事実、今大会序盤の試合でも失点が多く、苦しい戦いを強いられていた。

 そんな札幌山の手が、準決勝で豹変(ひょうへん)した。メインコートでの準決勝、桜花学園戦で攻守においてこれまでにない粘り強さを見せたのだ。大会屈指の好ガード#4三好南穂と180センチ台のツインタワー馬瓜エブリン、河村美幸を擁する桜花学園を74−71で退けた。エース長岡の活躍に加えて3点シュートが9本と炸裂し、勝負所の守りもチームディフェンスが機能した。シューター佐藤れなは「メインコートに立ったら、チームがガラリと変わった。自然と気持ちが一つになっていた」と話す。これまでのモヤモヤぶりが一気に吹っ切れた一戦だった。

コーチも“まさか”と語る大会2連覇

 こうして迎えた2年連続となる決勝戦。先にリズムをつかんのは山形商だった。札幌山の手は、長岡の消極的なプレーが響いて第2ピリオド半ばまでに13点のビハインドを背負う。しかし、チームはここから踏ん張りを見せる。長岡のエンジンがかかり、本来の強気のプレーが戻ってからは前半を3点差で折り返し、後半すぐに逆転に成功。長岡の多彩なシュートに加えて、佐藤や新堀京香の3ポイントが要所で決まった。

 勝負所のリバウンドを制し、ディフェンスでは寄りの速い守りで相手のリズムを崩していく。最終スコアは80−73。リバウンド41本は山形商の26本を圧倒。最後の大舞台で、チームは一丸となって最高の試合を見せた。昨年の王者の意地が、そこに垣間見えていた。

 優勝インタビューで「人生には“まさか”というのがあるんだなと実感した」と語った上島コーチ。「選手が頑張った。今日は褒めてやりたい」と、指揮官の口からはめったに出ない最上級の賛辞も飛び出した。

代表の経験を経てさらに進化した長岡萌映子

大会の総得点204点と札幌山の手のエース長岡はその実力を遺憾なく発揮した。今後の活躍にも目が離せない 【加藤よしお】

 連覇を成し遂げた長岡の目からは、うれし涙が止まらなかった。春からの5カ月間は代表活動のために札幌と東京を何往復もした。そのためチーム練習がほとんどできず、総体は4強どまり。人一倍負けん気の強い長岡が、悔し涙を流した。
「あの頃が一番きつかった。代表では(年齢が)一番下なので、何も失うものがないから思い切りできるけれど、チームに戻ると自分が先頭になってやらないといけない。その気持ちの切り替え、モチベーションを保つのが一番難しかった」と当時を振り返る。

 そんな試練を経たからこそ、長岡は一段と進化を遂げた。2人、3人がかりで守られても、冷静だった。今大会の総得点204点は断トツの1位。1試合平均は40.80得点。東京成徳大高戦では最多得点タイ記録の51得点(1989年大会、加藤貴子=富岡)をマーク。総リバウンドも74本を記録した。

「シュートへの判断力が的確。状況の見極めが落ち着いていた」。この日、テレビゲストとして観戦していた日本代表キャプテンの大神雄子(JX)も、長岡の成長とたくましさに感嘆の言葉を贈った。

 キャプテンとしての重責を果たした長岡は、「最後まであきらめないで仲間を信じてやった結果。自分たちの代で優勝できて本当にうれしい」と最高の笑顔を見せた。昨年以上に価値ある、重みのある優勝だった。

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著者プロフィール

月刊バスケットボールで12年にわたりミニバスから中学、高校、大学、トップリーグ、日本代表まで幅広く取材。その後、フリーランスとなる。現在はWEBを中心にバスケットの取材・執筆を続けている。ほかに教育分野での企画・編集なども手がけている

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