「ももクロとプロレス」――“あの熱”よ、もう一度/後編
ももクロの魅力に迫るインタビュー後編、「ももクロ、試練に次ぐ試練の1年」とは? 【(C)STARDUST PROMOTION INC.】
しかし彼女たちがこれまで乗り越えてきた試練の数々を思えば、大槻ケンヂが紡いだ「労働の喜び」を高らかに歌い上げる「労働讃歌」は、歌い手としてももクロほどふさわしいグループはないのではないかと思う。
演出家、佐々木敦規氏が語る「ももクロ、試練に次ぐ試練の1年」とは。
2時間の公演を1日3回、65曲を歌って踊った時、本人たちの顔が変わった
佐々木氏はももクロの成長スピードに「予想以上」と笑顔を見せる 【茂田浩司】
「2万7、8千のキャパなら十分に出来たと思いますけど、そこは無理をしないで今回はステージをデカく作ったりするのでアリーナバージョンの1万人ぐらいですね。チケットが手に入らなくてファンも苦労しているようですけど、毎回、期待値の高さは感じてます。こないだも女祭りと男祭りというライブをやったんですよ」
――女性のアイドルグループがあえて女性限定の「女祭り」をやるのは面白いですね。
「正直、冒険でした(笑)。女の子のファンがちょこちょこ増えて来たんで何とか500ぐらい埋まれば形になるかなって思ってたら、800の会場に4000近く応募があって『いけるじゃん!』って感じでしたね(笑)。通常のライブでも女性と子供のエリアを作ってるんですよ。オールスタンディングでやるとモッシュまではいかないんですけど屈強な男たちがそれなりの踊りをやるので(苦笑)。女性とお子さんは大変ですからそこは守ってあげないといけないなっていうのがあって」
――女性と子供のエリアは大事ですね。
「そこに合った振り幅を表現したいと思ってるので、女祭りではファッションショーをやって、東京ガールズコレクションみたいに着てる服を携帯で買えたり、女の子が喜ぶことをしたんですよ。その時はブ厚い台本を作って綿密にやったんですけど、男祭りはあえて雑に作りました(笑)。『男は黙って醤油で食え!』ってテーマで笛吹いたら御輿いけ!みたいな(笑)」
――(笑)作り手も楽しんでますね。
「予想以上の成長が見られるから楽しいですね。『ああ、これぐらいか』ってなっちゃうと僕の演出家としての探求心も萎えてしまうんですけど、設けるハードルをどんどん涼しい顔をして越えてこられちゃうと『じゃあ今度はこれだ!』ってそこでいい競争というか。
僕らスタッフ間ではももクロのライブは『大会』と言っているんですけど、よみうりランドも最初は雨で、その時、音響さんがプロレスを分かってる人で『野外で雨かー。でもこういう時こそいい試合になるよね』って(笑)。この『試合』っていう感じ、いい言葉だなと思って。お客さんにはその試合を楽しんで貰いたいし、試合だからそこに賭ける意気込みがあるし、作ってても面白いです。また『いい試合』をしてくれるから(笑)」
――ももクロは「ガチ感」が伝わってきますね。毎回新たな、高いハードルが設定されて、本人たちが抱える不安と緊張と、やり遂げた時の喜びがストレートに伝わってきます。
「僕が見て1年ですけど『まだ1年しか経ってないの?』ってびっくりですね(笑)。連中とはいろんなハードルを越えてきたから。ライブでは2時間、歌って踊りまくるんですけど、7月のZEPPでは3回回し(1日3回公演)をやったんです。さすがに本人たちも無理というし、百田なんか『満足なパフォーマンスが出来ない』って泣くし。僕も演出で休憩を入れたりしないと無理だと思ってたんですけどみんなで話し合って、結局『やろうぜ』って、2時間を3回、1日で65曲歌って踊って。本人たちも『自信ない、自信ない』って言ってたんですけどステージに上がったらやるしかないんですよ。
アクロバットをやるから足を攣ったりするんでバックヤードに格闘技みたいにマッサージを入れて、それをやり切った時の本人たちの顔がもう違うんですよ。ファンも感動しちゃって、僕、握手されましたよ(笑)。それまで『あんなことをやらせんな』ってボロクソだったんですけど、本人たちがエンディングの曲で泣いて「やってよかった」って」
ももクロが語るのは「自分の言葉」「本気の言葉」
ももクロが語る“言葉”は作り物ではない“本気の言葉” 【t.SAKUMA】
「難しいですけど、あまり作り込まずにやりたいんですよ。それこそ昔のプロレスで、僕らが子供の頃に見た猪木がウィリー・ウイリアムスとやってた頃のワクワク感、ドキドキ感。そういう感じがすごくももクロに当てはまるような気がしてて」
――予定調和じゃなくて、何が起こるか分からない「一寸先はハプニング」の世界(笑)。
「そういう意味では彼女たちが進んで行く道から大きく脱線をしないように、過剰な演出をしないように仕向けていってるつもりです。これから彼女たちが2年で燃え尽きるのか、5年10年続けてSMAPになっていくのか。それは分からないですけど、でも目指すべき場所に向かって歩んでいく中で、上手くレールが敷けたらいいなっていう。多分、この子たちは道を間違えないような気がするんですよね。自分たちの行く道は自分らでしっかりと見ている子たちなので」
――そんな感じがしますね。
「あと、僕は彼女たちに余計なキャラは一切つけてないんですよ。アイドルはキャラを乗っけられたりするんですけど、素のいいところを引っ張ってくるのが好きなので『天然ボケだな』とか『不思議な子だな』と見つけたらそこを引き伸ばしてあげる。それは常に心がけていて、そこはウソのないドキュメンタリーです。元々自分にあるものをブラッシュアップするから本人たちもやりやすいじゃないですか。そういう作り方が今は上手くいってるかなと思いますね」
――「キャラ」は芸人を含めて色々見てますけど本人の中にない「作りもの」はダメですね。いろんな局面に対応できなくて、見てて飽きてしまうんです。
「うん、キャラが乗ってると壁を突き破れない気がするんですよ。「本気の自分」を出せないじゃないですか。それって、その時点で物凄いリミッターでがんじがらめにしちゃってる」
――「本気の言葉」じゃないと聴く人の心は打たないですよね。
「そう、おっしゃる通り」
――ブル中野さんが現役時代「私のマイクは全部本気だった」というんです。ヒール(悪役)だからどうではなくて自分の気持ちで喋った。だからいまだに感動できるんです。
「それは本当に大きいと思う。中野サンプラザの早見のセレモニーあったでしょ。あんな長い予定じゃなかったんだから。僕が言ったのは、メンバーは早見にひと言ずつメッセージを贈ってください、早見はメンバーにひと言ずつ贈ってくださいと。実際にリハもしようかと思ったんですけど『佐々木さん、これリハしますか?』と言ってきたから『お前らはどうしたい?』と聞いたら『本番まで取っておきたい』というわけ。分かった、じゃあリハなしでやろうと。まさか一人で5分ぐらいエピソードを喋るとは思わなくて(苦笑)、結果、1時間ぐらいのセレモニーになったんだけど、DVDもノーカットにしたの。それはその要望が物凄く多かったから」
――脱退の告白とセレモニーは日曜昼の「ザノンフィクション」を見てる感覚でしたよ。
「みんな『自分の言葉』で言ってるんだよね。本当の話で、自分の感情で、脚色は一切なし。だから長くなっちゃったけど一つ一つの言葉の力が強いから。早見が一人一人に贈ったメッセージもそうだけど、やっぱり本当に『自分の言葉』で言わせるのは大事だと思った。
ウチは『自分の本当の、生きた言葉で言ってください』って心がけてて、最初はそれも出来なかったんです。自分の思ってることを自分の言葉で伝えるのって難しいじゃないですか。それを5人それぞれ差はあるけども上手に出来るようになってきた。メンバーで台本覚えが一番悪いのは百田ですよ。でも、いざ、という時に一番いい言葉を言うのも百田。僕が進行の台本を書いてて思いつかないような、ファンに『刺さる言葉』を言うのが百田なの。そこは天賦の才というか、何か持っているんですよ(笑)」