FC東京、意識改革が導いたJ1昇格=まさかの降格から1年、再び最高の舞台へ
最大の転機となった草津戦の敗戦
優勝でJ1昇格を決めたFC東京。大熊監督は「31人の力、クラブ力の結集、ファンのおかげ」と語った 【Getty Images】
「選手ミーティングでも“優勝して昇格しよう”とは、みんなが口酸っぱく言ってきたこと。それを達成でき、うれしく思います」
同じくファンサービスの列で結果を知り、ファンに祝福された椋原健太は「1人シャワーを浴びている時に優勝が決まるより、ファンのみなさんと一緒に喜びを分かち合えてよかった」と言う。
11人だけではなく31人の力、クラブ力の結集、ファンのおかげ──という言葉は大熊清監督から何度となく聞かれたことだ。
艱難(かんなん)辛苦の末にJ2優勝を達成した大熊監督は「サポーターへの恩返しに優勝を贈りたいと思います。ホーム(大分戦以外負けなし)は間違いなくサポーターの方々の力だったし、アウエーではゴール裏だけを見ているとホームと間違えるような雰囲気をつくってくれた」と、かすかに声を上ずらせて感謝の念を述べる。
平山相太に続き高松大樹までもが故障し、大型のセンターFWが不在となり、内容でも完敗して11位に転落したJ2第12節、アウエーの対ザスパ草津戦が最大の危機であり、転機だった。
味方のはずのサポーターから罵声(ばせい)が飛んでくる。顔面を紅潮させてスタジアムの休憩室へと飛び込んできた大熊監督は頭から水を被り、声にならない声を上げた。そうして強引に気を取り直して記者会見に出席した後、囲み取材に応じた時点で、既に覚悟は決まっていたようだ。
「今いる選手でやるしかない。その選択を含めて考える」
空中戦を断念して地上戦へとサッカーのコンセプトを変えた。選手同士で話し合いを活発化させ、「つなぐサッカーをやりたい」と意見をまとめて上申した。ここから逆転昇格へ向けての快進撃が始まった。
その時、その場にいる人間がベストメンバー
「いい選手が多いし、プライドが高い。東京だし。だから、自分たちは相手より上なんだという気持ちでやっていて。でもなかなか結果が出ないから。そこで、このままじゃまずいってことで、けっこうみんな本音で話し合った。その……言い合って、変われたと思います」
選手の考えを採り入れた、パスワークを基調にした新しい東京スタイル。この地上戦コンセプトは、豊富な運動量と素早い動き出しで相手ディフェンダーを引きはがし、スペースをつくる羽生直剛をオーガナイザーとして推進された。羽生は「このサッカーを成功させなければチームは崩壊すると思った」と述懐する。その結果が翌第13節の対湘南ベルマーレ戦からの11試合連続不敗だった。
石川直宏は「チームづくりが大きく分けて3段階あった」と言う。リトリート(後退)してブロックをつくるJ2のディフェンスに対し、190センチ級の高さで競り勝つことを究極の決め手とした第1期のサッカー(開幕戦の決勝点は平山が競ったボールを谷澤達也が蹴り込んだもの)、セザーを1トップに据えて地上戦へとかじを切った第2期、そしてセザーの故障によって1トップをルーカスに替え、彼へのクサビを起点にした第3期。
10月後半の5連戦あたりからは、ドリブラーの個人突破を最大限に活用するゴリ押しの攻撃が主流になってきた。梶山陽平、高橋、今野、徳永悠平が同時に欠場した第34節の対湘南戦では、下田光平が広範囲をカバーする守備意識の高さ、ジェイド・ノースが跳ね返しの強さでディフェンスに貢献した。
その時、その場にいる人間がベストメンバー。いる人間なりのサッカーをする。これはもう第4期のスタイルを築くとかそういうことではなく、サッカーの原点のような戦いだが、そうした状態に追い込まれても勝つことができるタフさを、東京は獲得した。