ギラヴァンツ北九州にもたらされた「ヤス革命」=“史上最弱”のチームが見せた急成長の立役者とは?

吉崎エイジーニョ

「すべてを変えました。固定観念を破壊したんです」

三浦監督がもたらした変化により、チームの戦術的な狙いにひとつの軸ができた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 6月、練習場で三浦は記者団から「ここまでチームのどこを変えたのか」と聞かれた。

 ためらわず、答えた。
「すべてを変えました。固定観念を破壊したんです」

 就任後、チーム全体の3分の1に近い9選手を新たに獲得したが、大物選手は1人もいない。ホームタウンの人口は100万人を超えるが、クラブの年間収益は全38クラブ中でも最も低い部類に属する。いわく、「ほかのクラブで試合に出られなかった選手と、昨年1勝しかできなかった選手しかいない」状態だった。
 
 三浦はそんなチームの「すべてを変えた」。
 
 2月のチーム始動日、選手を前に言い切った。
「今までと同じでいいヤツは今すぐ去ってくれ。たとえ契約したばかりでもだ!」
 始動2日目、いきなり高校チームとの練習試合を組んだ。異例の日程に、選手は「なぜ」という表情を見せたが、おかまいなし。三浦の考えはこうだった。
「なぜ、2日目に試合があるのがおかしいのか。これまでの考えは捨てるべき。準備をすればいいだけだ」
 
 30試合近く勝てないのはメンタルに根本的な問題があるからと考えたからだ。「長所は残す」という考えすら持たず、とにかく考えを変えることを徹底した。練習ではレギュラー組、サブ組を完全に分け、厳しい叱責(しっせき)を浴びせていった。
「何度同じことを言ったら分かるんだ?」
「そんなことやるヤツがいるか?」
 選手の反骨心を煽ることが狙いだった。
 
 シーズン開幕後は、18人の試合ベンチ入りメンバーについて、時に「18番目の選手が必ずしも、18番目の実力のある選手ではないことがあった」という。わざと力の落ちる選手を入れ、ほかの選手の発奮を促したのだ。
 
 結果、「最初は起用したいと思える選手が数名だったが、少しずつ選択肢が増えてきている」。三浦に言わせると「彼らが自分で這い上がってきた」となる。
 
 一方で、練習後には、ついさっきまで強く叱咤(しった)していた選手と、談笑する場面も見られる。新加入のボランチ、キム・ジョンピルは「厳しいけれど、選手のことを考えて言っているというのが伝わる」と話す。左MFでレギュラー出場を続ける森村昂太は、「試合中も、テクニカルエリアで声を出し続けている。選手と同じ立場で戦ってくれているような気がする」と言う。

「変化は常に必要。常に選手の様子を見ながら考える」

 また、熱い気持ちを前面に出しつつ、ピッチ上では「コレクティブなサッカー」を追求した。1ボランチの4−4−2をベースに、ディフェンスラインから大きくボールをつなぐ意識を徹底。同時に一方的に指示に従うのではなく、ピッチ上では選手に自ら考えることを求めた。昨年とは違い、チームの戦術的な狙いにひとつの軸ができたのだ。

 相手ボール時には4バックで守りつつ、攻撃時にはボランチの桑原裕義がセンターバック(CB)に下がり、3バックの陣形を組むシステムを採用する。両サイドの位置を高く保ち、しっかりと攻撃を組み立てることが狙いのひとつだ。時にCBの福井諒司、宮本亨も両サイドをオーバーラップする戦い方について、6月19日に対戦した栃木SCの松田浩監督はこんな印象を口にしている。
「力づくで止めようとしたら、かわされてしまう」

 一時は昇格圏にも近づいた7月までの快進撃も、8月は1勝2分け1敗と、やや平行線をたどった。三浦は27日の湘南戦では「アタッキングサード(相手のディフェンスラインの前)での運動量が落ちていた」と課題を話した。ゴール前までつなぐ意識は徹底されている。しかし、ほぼ固定されたメンバーで戦う中、最後の崩しの場面でのアイデアが不足してきている。当然、相手も研究してきたという面がある。
 
 9月からの戦いは「勝ち点3の重みがこれまでの戦いと全く違ってくる」と言う。足踏みした8月、「チームに何か変化を与えるのか」という問いにはこう答えた。
 
「変化は常に必要。しかし、選手が混乱するような変化を与える考えはない。常に選手の様子を見ながら考える」
 
 つなぐ意識、という一本の筋が生まれたチーム。晩秋、どんな位置にいるだろうか。仮に3位以内に入っても、スタジアム規格のためにJ1昇格は厳しい。当然、上のステージを目指す一方で、選手は口々に言う。「一つひとつの戦いに集中する」。三浦はこうも言っている。
「今日笑っていても、明日笑われることだってある」
 熱く、かつコレクティブに戦うチームの戦いぶりに、ご注目を。

<了>

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著者プロフィール

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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