世界基準で考える競り合いの技術的な課題=U−22日本 2−1 U−22エジプト

小澤一郎

最終予選を勝ち抜くための新戦力候補

新戦力候補の中では、山田(左から2人目)が1ゴール、1アシストと結果を残した 【Getty Images】

 9月21日から始まるロンドン五輪・アジア最終予選に向けて最後の国際親善試合となったエジプト戦。前半5分にセットプレーから失点を許し、このU−22日本代表の課題であるゲームの入り方、セットプレーでの守り方のまずさをまたもや露呈してしまったが、11分に山田直輝、30分に永井謙佑がゴールを決めて逆転。後半は多少エジプトペースと呼べる時間もあったが、決定的な場面を作らせることなく、日本が2−1で逃げ切った。

 日本のサッカーや試合のポイントについて語る前に、まずは今回の試合がラマダンという断食月にあたり、8人もの選手が試合前の深夜2時から飲まず、食わずでプレーしたU−22エジプト代表に敬意と感謝の意を表したい。ハニ・ラムジ監督が「特に前半の方に影響が表れた」と語った通り、時差や長距離移動に加えて断食によるコンディションの悪さは試合開始直後から見てとれた。しかし、後半は関塚隆監督に「エンジンを吹き返してきて、われわれがうまく相手にボールを動かされた」と言わしめるほどの内容だった。

 さて、日本にとってこの親善試合の最大のポイントは、関塚監督が前日会見で「新しく加わったプレーヤーがどのくらい機能してくれるか」と語ったように、2次予選までとは異なる新しい顔ぶれの戦力的な見定めにあった。マレーシア、バーレーン、シリアと同組のアジア最終予選はセントラル方式ではなく、9月から来年3月まで続く長期戦。日程が変則的であること、海外でプレーする選手に関しては拘束力がないことからしても、国内組を中心にラージグループを作っておくことは必要不可欠だ。

 この試合に限ってみても、清武弘嗣がA代表に招集され、山崎亮平が病気、原口元気がけがのため離脱。流通経済大の山村和也、比嘉祐介、増田卓也の3選手もユニバーシアード代表の開幕直前であるため招集されず。そうした台所事情から関塚監督は、4日のメンバー発表で和田拓也(東京V)、田邉草民(FC東京)、齋藤学(愛媛FC)、杉本健勇(C大阪)の初招集4選手をリストに加え、2次予選では招集外だった薗田淳(川崎)、高橋峻希(浦和)、青木拓矢(大宮)らを呼び戻した。また、原口が合宿直前に招集辞退となったことから、山田(浦和)と初招集となる茨田陽生(柏)を追加招集した。

 注目されたスタメンは、GK権田修一、DFは右から酒井宏樹、鈴木大輔、濱田水輝、酒井高徳、ボランチに山本康裕と山口螢、2列目右から東慶悟、山田、永井、1トップに大迫勇也という1−4−2−3−1の布陣。2次予選のメンバーには入らなかった新しい顔ぶれの中で先発したのは山田のみだったが、山田は1ゴール、1アシストの活躍。関塚監督も「何回か呼んでいる中では、今日が一番機能していた」と高い評価を与えていた。

齋藤が示したゲームファーストの考え方

 山田以外の新戦力候補選手については、いずれも後半途中からの出場で、20分未満の出場時間にとどまったことから評価が難しい(薗田、和田、田邉は出場なし)。個人的にはハーフタイム後の交代や最低30分の出場時間を与える交代策があっても良かったと考えるが、関塚監督の選手起用の特徴はアジア大会から2次予選までの流れでも分かる通り、あくまでベースとなる人選、戦術があった中で上積みを求めていくやり方だ。試合後、「それぞれが自分の良さというか、しっかりとチームのコンセプトを頭に入れながら、個人の良さというものを出してくれていた」と新戦力のチェックに手応えを感じる発言を残している点からして、出場時間の多い、少ないに関係なく、ゲーム前のトレーニングやミーティングも含めて選手の見極めが遂行できたのだと理解する。

 ここで、メンバーに関連して言及したいことが2つある。まず、韓国戦での活躍でA代表に定着となりそうな清武について。89年生まれ以降の選手で構成されるU−22代表の目標は来年開催されるロンドン五輪の出場権を獲得することだが、それが唯一絶対の目標ではない。厳しいアジアでの予選を戦いながら、結果を求めながらも五輪代表はA代表につなげるための選手を育成する役割を担っている。そう考えれば、清武がA代表に定着することは非常に喜ばしいことであり、メディアの人間としてこうしたケースが起こった時にはA代表に選手を「取られた」「抜かれた」ではなく、「送り出した」と表現した上で、昇格選手を出した関塚監督の手腕をきっちり評価しておきたい。

 もう1つは、今回初招集となり、試合後エジプトのハニ・ラムジ監督から印象に残った選手としてただ一人名前を挙げられた齋藤学について。今季、横浜F・マリノスから愛媛に期限付き移籍したことで試合出場の機会が増え、そこでの活躍が認められる形でU−22代表入りした。海外のようにサテライトのリーグ、チームが整備されていないJリーグでは、ユース年代まで順調に育ってきたタレントがプロ入り後に伸び悩む問題を抱えている。近年になってようやく出場機会の少ない若手選手の期限付き移籍が増え始めているが、Jクラブにも選手にもまだまだ「試合に出てナンボ」というゲームファーストの考え方は浸透しきっていない。

 小学生から横浜FMの下部組織で育ってきた齋藤だけに、「マリノスでのプレーに固執した部分があるのか?」と聞くと、「小学生からマリノスでやっていた分、ほかの環境に行くというのはサッカー選手としても、人間としても大きくなれるという思いがあった」と返ってきた。そんな齋藤は「愛媛、J2にレンタルで行って、活躍してここに呼ばれるというのはいい形だと思う。J1で出ていない若手選手はたくさんいるが、もっと試合に出たら自分のようなチャンスがたくさんあると思う」と、Jクラブでなかなか実戦経験を積めない同世代の選手にメッセージを送る。今季クラブでレギュラーを獲得したことで初招集された田邉草民の例も合わせて、われわれが一見「伸び悩み」と呼ぶ若手選手というのは、実は公式戦の出場機会を得られていないだけなのだ。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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