世界基準で考える競り合いの技術的な課題=U−22日本 2−1 U−22エジプト

小澤一郎

Jリーグと国際試合で異なるジャッジの基準

競り合いではJと異なるジャッジの基準に苦労した。鈴木(写真)は「胸から抑える感覚で競っていた」という 【Getty Images】

 このエジプト戦で浮かび上がった課題については、技術的側面から述べておきたい。立ち上がり5分にセットプレーから失点した点はいただけないが、冒頭に記した通りこれまで何度も出てきている課題でもあるので、さすがに最終予選以降は修正されていくのではないかと勝手な憶測を持っている。

 個人的に気になったところは、その点よりも関塚監督も指摘していた「競り合いで手をかけないでいく技術」の不足。会見での説明にあった通り、この試合での日本は競り合い時に手を出す、かけることで簡単にファウルを取られていた。濱田は「クリーンなディフェンスを心掛けないといけない」と語っていたが、根本的な問題というのはジャッジの基準が日本国内とアジア予選で異なることにある。鈴木は「(国際試合でのジャッジは)Jとは違うと思うし、取られないようなところでも取られる。軽く手が当たっても取られるし、そういうのはアジア予選でも経験しているので。もちろん、最終予選でもああいうような取られ方もすると思う」と説明している。

 選手にとっては国内のJリーグと代表での国際試合でのダブルスタンダードが要求されてしまうわけだが、ジャッジの正確性の議論は置いておき、比較的緩いJリーグの基準に慣れた選手たちが厳しい国際基準に順応していくのはそう簡単なことではない。この点について鈴木に聞くと、「個人としては、前に手を出すと(ファウルを)取られるという意識があったので、手を出さずに胸から抑えるような感覚で競っていた」とのこと。大切なことはこうしたテーマを選手個人の感覚に頼ることなく、代表として、日本サッカー界として共有していき、国際基準に沿った技術獲得を目指していくことであろう。

クリアを守備の技術から攻撃のための技術へ

 その意味で言うと、やはり日本サッカー界としてディフェンス面での技術が細分化されていないことは問題ではないか。鈴木が説明してくれたような胸から抑えるような感覚での競り合いの技術というのは、日本でまだまだイメージしにくい。また、この試合で目についたのは、鈴木や濱田のヘディングが競り勝つ、遠くに飛ばすヘディングに終始していたこと。もうワンランク上のセンターバックであれば、相手と厳しい競り合いをした中でもヘディングで味方の足元に確実に収めてくる。日本の両センターバックはこの技術が未成熟で、ボールの落下点を素早く予想し、体を入れて有利な競り合いの時でもボランチや味方にボールを収めることができていなかった。

 鈴木はこの点について「やっていて僕も感じたし、もうちょっとパスにしたかったというところはある。ただ、どうしてもギリギリの競り合いにはなるので、水輝(濱田)も僕にしてもちょっと余裕がなかった。それも次に向けて競る前に周りを見ておいて、というようにはしていきたい」と語る。

 世界のサッカーを見渡すと、攻撃と守備は限りなく一体化の方向に向かっており、特にいい攻撃をするための守備から攻撃の切り替え速度というのは加速度的に早まっている。よって、将来的には「クリア」という言葉の定義が「ボールをはじく」「遠くに飛ばす」という感覚から、「味方にワンタッチでつなぐ攻撃のスイッチ」という意味合いを持つ、要するに守備の技術ではなく、より攻撃のための技術にシフトチェンジしていくのではないか。

 選手の思考やピッチ上での判断基準を個人の中にとどめるのではなく、日本サッカー界全体として共有することは重要で、さらなるレベルアップを図るためには影響力のある代表という存在を積極的に使っていく必要がある。マスメディアではなかなか扱いにくいテーマではあるのだが、このU−22代表がさらなる進化を遂げて世界を驚かせるためにも、機を見ながら技術的テーマに関しても言及していきたいと思う。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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