被災地のクラブ、水戸が背負うもの=「復興」のシンボルになるために
水戸は震災の影響で苦境に立たされている
震災の被害を受けたケーズデンキスタジアム水戸 【佐藤拓也】
4月23日にリーグの再開が決まったことに触れると、水戸ホーリーホックの沼田邦郎社長は困惑の表情を見せた。当然、経営面を考えると1日でも早く試合をしたい。だが、被災地である茨城県の現状を見ると、まだすべきではない。その2つの思いの狭間に水戸は揺れている。
3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震で、茨城県も大きな被害を受けることとなった。県内の建物損壊数は23日午後6時時点で4万5483戸。宮城県が8108戸、岩手県が1万1158戸ということからも、いかに被害が甚大だったかがよく分かる。今でも断水が行われている地域も多く、大きなつめ跡が各所に残されている。また、現在は福島原発からの放射線物質による2次災害も発生。茨城県にはまだ復興への希望よりも不安の方が色濃く残っている。
クラブも震災の打撃を受けた。選手たちの安全面を考えて、3月11日以降、チームは活動休止中。ほとんどの選手が水戸から離れ、各自で調整を行っている。また、ホームスタジアムであるケーズデンキスタジアム水戸の被害も深刻な状態にある。メーンスタンドの破損が激しく、スタジアム外周には隆起・陥没している個所が多いため、「現段階で観客を入れる状態ではない」(スタジアムスタッフ)。いまだに「復旧のめどが立っていない」(同スタッフ)とのことで、4月23日に予定されているホームゲームの開催は極めて厳しい状況だ。現在、クラブ側は代替会場を探しているものの、茨城県のどのスタジアムも被害を受けており、試合ができる状態にない。Jリーグはリーグ再開の日程を出したとはいえ、水戸自体はまだ試合を行う準備ができていないのが実情である。
被災地のクラブとしての葛藤
沼田社長は被災地のクラブとしての悩みを語った 【佐藤拓也】
10月31日までに返済できなければ、「最悪の事態を考えなければならない」と1月の記者会見で沼田社長が述べたように、チームの解散も十分考えられる状態にある。それを回避するために、「募金活動」「新規スポンサーの獲得」「入場料収入増」「増資」を柱とした経営改善計画を立て、新たなスタートを切るはずであった。しかし、その矢先で起きた大震災。すべての予定が狂うことに。「本当に厳しい状況になった」。沼田社長は険しい表情を見せる。
「スポンサーを獲得したくても今はそれどころじゃないという会社がほとんどですよね。逆に、今ついているスポンサーが離れないように、まずは1件1件あいさつに行っているところです。2次災害も発生しており、茨城の経済はかなり厳しい状況。その中でスポンサーを探すのは至難の業。先行きはかなり厳しいですよ」
経営面を考えると、1日でも早いリーグの再開が望まれる。だが、沼田社長はその考えにも否定的だ。冒頭の言葉こそが、沼田社長の思いなのである。数日前、沼田社長は支援物資を届けに、県内でも被害の大きかった大洗町へ足を運んだ。そこで目にしたものは、ショッキングな光景であった。津波により、町は壊滅的なダメージを負った。現在、復旧作業を行っているが、風光明美だった町並みは失われ、悪臭が漂っていたという。そうした中で復旧活動を行う人たちの姿に、沼田社長の胸は痛んだ。大洗町は水戸のホームタウンの1つであり、毎年シーズン前に水戸がトレーニングを行っている場所。それだけに「あの悲惨な状況を見ると、自分たちだけ試合をしていていいのかという気になりますよ」と沼田社長は語る。大洗町だけでなく、ひたちなか市や茨城町など、まだライフラインが完全に復旧していない近隣市町村があることも沼田社長の後ろ髪を引く。「サッカーを通して地域に元気を与えたい」という思いもあるが、時期尚早なのではないか。被災地のクラブとしての葛藤がそこにある。