日本のGKを支えたイタリア人コーチの存在=アジアカップ優勝の影の立役者

北健一郎

日本のアジアカップ制覇を支えたGK陣の活躍

グイードGKコーチ(右)の練習メニューは選手からの評価が高いようだ 【写真:アフロ】

 カタールで行われたアジアカップ、準決勝と決勝で勝てた要因は「GK」だった――。そう表現しても大げさではないぐらい、2試合のGK川島永嗣のパフォーマンスは際立っていた。韓国戦ではPK戦で3本すべてゴールを許さず、オーストラリア戦では2、3点分の失点シーンを止めて見せた。李忠成のボレーシュートが決まった決勝戦のマン・オブ・ザ・マッチが川島だったことが、そのプレーぶりを裏付ける。

 だが大会序盤、日本のGKは「弱点」といわれた。シリア戦では川島が不運な判定ながらも、相手の決定機を阻止したとして退場し、チームは窮状に追い込まれた。準々決勝でも「4つのミスがあった」(ザッケローニ監督)FKから失点を許して、開催国カタールに希望を与えることになった。川島からはあの“どや顔”が消え、会場のモニターには失点にぼうぜんとする表情が流された。

 最終的にはハッピーエンドで終わったが、そこに至るまでの過程には謎が残ったままだ。序盤戦の川島のパフォーマンスはなぜ低調だったのか? そこから盛り返すことができたのはなぜだったのか? 筆者は現地での取材期間中、GKの選手を重点的に取材し、公開練習となった試合翌日のトレーニングではGK練習を観察し続けた。

 そこから分かってきたのは、緻密(ちみつ)に練り上げられた練習メニューと、巧みなモチベーションコントロールだった。「日本の守護神」を支えていたもの。その秘密に迫っていきたい。

失点シーンに基づいた練習メニュー

「ゴー!」

 ポカポカとした天気が眠気さえ誘うようなアル・アハリスタジアムに、大きく、張りのある声が響く。声の正体はマウリツィオ・グイードGKコーチだ。ピッチの隅に作られた、GK練習用のスペースでは、西川周作と権田修一がグイードGKコーチから“しごき”を受けていた。

“しごき”と表現したのは決して大げさではない。主力選手がリカバリー目的で軽く汗を流す中、GK練習が行われていたピッチのサイド隅のスペースだけは明らかに空気が違った。うわさには聞いていたが、グイードGKコーチによる練習メニューのテンポの良さと、トレーニングの激しさは予想以上だった。

 イタリアは世界で最もGKのレベルが高い国といわれている。“ウノ・ゼロ(1−0)”の美学という言葉に代表されるように、守ることに美学を持っているこの国では、当然GKに求められる要求も高い。そんな国からやってきたGKコーチがどんな練習をし、レベルを高めているのかを探ることにした。

 筆者が今大会、初めてGK練習を取材したのは1−1で引き分けたヨルダン戦の翌日だった。この日のメニューの中から印象に残ったものを抜粋する。

(1)縦方向に置いたポールとポールの間にロープを張って、その下をくぐり、軽くジャンプしてから、コーチから投げられたボールをキャッチする

(2)でんぐり返しをしたら地面に両足を伸ばす。そこから素早く起き上がると同時にジャンプして、コーチが投げたボールをはじく

(3)腕立て伏せをしてから、コーチが「ゴー!」と言ったらボールをどちらかのサイドに投げる。GKは腕立て伏せから素早く体を起こしてボールに飛びつく

 上記の3つに共通点があることに気づいただろうか? どのメニューにも何か動作をしてからセーブをするという要素が含まれているのである。頭の中に思い浮かんだのは、前日の失点シーン――ヨルダン選手のドリブルからのシュートが、DF吉田麻也の出した足に当たってコースが変わって決まった場面である。「事故」とか「不運」という言葉で片付けてしまいがちな失点を止めるための練習メニューに取り組んでいたのだった。

 練習後、西川に話を聞いた。「昨日の失点シーンであったように、シュートが打たれた後に、予測した方向に来なかったときに反応するための練習をしました。グイードさんの指導はすごく細かい。例えば、寝た状態から体を起こすときの起こし方についても、『この方が速くなるだろう』とか見本を見せてくれるので、勉強になる。これからも、高い意識で練習に取り組んでいきたいです」

 失点シーンはGKにとっては最高の薬といっていい。その残像が色濃く残っているうちに、練習メニューに取り込むことで、最大限に効果を高めることにつながる。グイードコーチのGK練習はその後もルーティーンワークになることなく、前日の失点や問題のあったシーンにフォーカスした要素が必ずといっていいほど取り入れられていた。

 シリア戦の翌日練習の中心はシュートストップ系のメニューだった。それも単なるシュート練習ではなく、ゴールライン上で寝そべった状態(1本目のシュートを止めた後の態勢)から、逆方向に投げられたボールに即座に反応するなど、シュートを止めた後のこぼれ球を止めることに特化した激しい内容だった。

 前日の試合では、川島がバックパスをクリアした後に、相手が触ったボール(主審は今野泰幸のバックパスと判定したが)に飛びついて倒してしまい、退場になってしまった。一つ前のプレーが終わった後に、次のプレーに移るまでの反応と予測をもっと早くしていれば、川島はボールが相手に渡る前に触って、退場していなかったかもしれない。

 GKは細かい部分が勝負を分けるという。いかに練習で細かいところを詰めておけるかが試合に影響する。細かいディティールを詰める作業は大会を通じて行われていた。

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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