日本のGKを支えたイタリア人コーチの存在=アジアカップ優勝の影の立役者

北健一郎

ザッケローニ監督とGKコーチが施した心のケア

ザッケローニ監督は最後まで川島を信頼して起用し続けた 【写真:ロイター/アフロ】

 一方で、グイードコーチは川島に対して「心のケア」も行っていた。先発出場したGKは試合後にグイードコーチと、その日のプレーを振り返りながら、「あそこが良かった」、「あそこは改善した方がいい」という反省会を行う。これは、どこのチームでも普通に行われていることで特別珍しくはないが、興味深かったのはグイードコーチがかけていた言葉の内容だった。

 ヨルダン戦の失点のシーンについて、川島は「あそこでコースが変わってしまったら仕方がない」と声をかけられていた。その失点が防ぎようのないものだったとしても、GKは必要以上に失点を気にしてしまうことがある。そこで傷に塩を塗るようなまねをしても、自信を失ってしまって、かえって良いプレーにはつながらない。

 それよりも、練習メニューに盛り込んで気づかないうちに失点シーンへの対処法を覚えさせた方がはるかに効率がいい。例えて言うなら、野菜嫌いな子供に「野菜を食べなさい」と無理やり食べさせても効果はないが、うまく調理して出してあげれば、知らないうちにその野菜が食べられるようになっているというような感覚だろうか。

 シリア戦で川島が退場し、その後出場した西川がシリア戦の残り時間とサウジアラビア戦で上々のプレーを見せたことで、守護神交代説もにわかに浮上した。ザッケローニ監督がカタール戦後に「何かは言えないがFKからの失点は4つのミスがあった」と発言すると、川島から西川に正GKを代えるのではないかという推測も流れた。

 だが、ザッケローニ監督は代えなかった。ザッケローニ監督は「わたしはGKを代えるのがあまり好きではない」と話していたが、理由はそれだけではないはずだ。これは推測だが、ザッケローニ監督は準々決勝・カタール戦までのGKのパフォーマンスに関しては、「参考資料」のようなイメージでとらえていたのではないだろうか。

 以前、元日本代表GKで現在は横浜F・マリノスのGKコーチを務める松永成立氏は「GKにとって本当に難しいのはほとんどボールが飛んで来ない試合」だと話していた。ほとんどボールが飛んで来ない試合では集中を保つのが難しく、突然来たピンチへの対処を誤ったり、反応が遅れたりしやすくなる、と。

 それに照らし合わせれば、ヨルダン戦やシリア戦のように、相手が守備的でプレー機会が少ない試合の方が、韓国戦やオーストラリア戦よりも難しいということになる。川島の調子が悪かったというよりも、試合の状況的に本来の実力を出せなかったと判断していれば、川島起用にこだわったのにも納得がいく。

 むしろ、韓国やオーストラリアのように自分たちと同等か実力が上の相手で、シュートがコンスタントに飛んで来る方が、GKからすればリズムに乗りやすい。オーストラリア戦での川島の神がかり的なプレーは、相手に主導権を握られ、攻められっぱなしだったことで逆にリズムを保てたからという見方もできる。

 失点シーンをいち早くメニューに取り入れたグイードコーチと、GKの心理を理解して起用したザッケローニ監督。準決勝・決勝でMVP的活躍を見せた日本の守護神のパフォーマンスの背景には、「世界一ディフェンスにうるさい国」から来た男たちの巧みなマネジメントがあったのである。

<了>

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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