日本男子初の制覇ならず 高橋、小塚は衝突の影響も=フィギュアGPファイナル
高橋は総合4位も言い訳せず
高橋は本来の調子ではなかったが総合4位に 【坂本清】
しかしオフリンクでは、「アクシデントがあってもちゃんと演技ができる精神力、体力、衝撃に耐えられる体が、自分にはなかったんです。これからはもっと鍛えないと。いい経験になったと思います」と、一切言い訳をせず、逆に小塚を気遣う様子を何度も見せてくれる。さすがの世界チャンピオンらしい態度に、さらに評価を上げたくらいだったのだ。
織田が入れた勝つための4回転
SPで4回転のコンビネーションジャンプを成功させた織田 【坂本清】
「高橋、小塚がダメージを追っている分、こんなときこそ織田が頑張らなくてどうする!」などと厳しい声も飛んだが、彼は彼で取材中に何度も思い詰めた表情を見せ、心配になることが多かったのだ。
パトリック・チャンに敗れたスケートカナダ、高橋に敗れたスケートアメリカ。どちらも優勝者よりジャンプ構成の難しいプログラムに挑んだにも関わらず、演技構成点でチャン、高橋に大きく離され、両大会とも2位。その結果が「自分にはジャンプしかない」という切迫した気持ちと、SPでの4回転挑戦につながったのだ。
どんなに跳んでも勝てない――この状況ほど、ジャンパータイプの選手にとってつらいものはない。そして織田の場合、決してスケーティングや演技力に劣る選手ではなく、今シーズンのSPでは野武士的な渋みも味わい深いプログラムを用意してきただけに、もったいないな、と思ってしまった。
確かに4回転−3回転を跳び、コンビネーションジャンプひとつで16.69点をたたき出した今回のSPは、今シーズンの男子シングル最高得点を得た。しかし4回転なしで心に余裕を持ち、プログラムの細部まで気を使ったスケートアメリカのSPの方が、演技として魅力があったことも確かだ。
「SPでの4回転は、全日本でもその後の試合でも、跳ぶつもりです。自分はその他の部分で点数を稼げるタイプではないので……勝つために、4回転は必要だと思っています」
もちろん生真面目な織田のこと。4回転を入れ、かつプログラムを殺さないよう練習は積んでくるだろう。しかし「自分にはジャンプしかない」、そんな悲壮な思い込みはせず、きちんと自分の魅力を思い出し、ジャンプ以外にも自信を持ってほしいと思う。だいたい「ジャンプだけ」の選手が、GPファイナルで2年連続表彰台に立てるわけがないのだ。
刺激を与え合いさらなる高みへ
「関西大学でずっと一緒に練習してきて、織田君がファイナルに向けて4回転の練習を頑張っているのは知っていました。僕もショートでの4回転……視野に入れていかなければ、厳しくなるだろうな」(高橋)
「ショートでの4回転や、フリーで2度の4回転、だんだん考えることになると思います。練習ではショートで跳ぶことも試していますし、回りの選手たちの状況もちゃんと見て、遅れをとらないようにしたいですね」(小塚)
高橋や小塚の演技構成点に追い付くため、ジャンプを究めようとする織田。織田のジャンプに刺激されて、さらに4回転をパワーアップさせようとする高橋、小塚――。
黄金時代とはこういうものなのか、としみじみ思った。ライバルが強くなるたび、その上を行くためにさらに強くなる日本の3人。今回の表彰台、一番上には届かなかったけれど、3人は3人とも、確固たる戦いをしている。そして、3人がかりで誰一人として頂点に立てなかったことを一番悔しがっているのは、きっと彼ら自身だ。
「もっともっと自分はできると思ってます。だからちょっと、悔しい……。シーズン前は、結果を気にしないで自分の演技をするつもりでした。でもこうして試合をしてみると、結果を気にしている自分も出てきた。闘争心も沸いてきたかな」(高橋)
来年3月に行われる今シーズン最高の舞台、東京世界選手権――。そこで必ず、彼らはGPファイナルでの借りを、きっちり返してくれるはずだ。
<了>