日本男子初の制覇ならず 高橋、小塚は衝突の影響も=フィギュアGPファイナル
日本初優勝を逃した男子シングル
カナダのチャン(中央)が優勝。織田(左)が2位、小塚が3位となった 【坂本清】
これは、日本チームを心から応援してくれている、海外メディアの友人の言葉。
史上最多、日本から男女シングルで計6選手が進出した今年のグランプリ(GP)ファイナル。しかし男女ともに金メダルを逃すという結果に、がっかりしてしまったファンも少なくないだろう。
だが大会期間中、そこかしこで日本チームの新しい課題が見つかり、さらなる可能性も見いだせる、収穫の多いファイナルではなかったかと思う。
男子シングルは、エース・高橋大輔(関大大学院)がジャンプ不調で4位。ポイントトップでファイナルに進出し、期待された小塚崇彦(トヨタ自動車)が3位。ショートプログラム(SP)1位で通過した織田信成(関西大)は、またもフリーで逆転されて2位。
日本男子初となるGPファイナル制覇の、絶好のチャンスを逃してしまった形となった。
練習で高橋と小塚が衝突
高橋のプログラム曲がかかっている最中に、小塚がジャンプをしながら背中から衝突――。リンクではもちろん、曲をかけている選手に優先権があり、ぶつかった小塚の方に非があることは、彼自身も痛いほどよく分かっている。小塚は普段から人への配慮が細やかで、このスポーツにおけるマナーも行動の鉄則も熟知している選手だ。その彼が起こしてしまったミスは、今大会への意気込みがどれくらい大きかったか、どれくらい公式練習から無我夢中で周りが見えなかったか――そんなことが良く分かる出来事だった。
ぶつかった直後の取材でも、「何が起こったか分からなくて……」と戸惑う小塚に対し、「彼の方もくるくる回りながらぶつかったんだから、平気ではないでしょう」と、プログラムを滑っていた高橋の方が状況を把握していたくらいだ。
以前のコラムでも「黄金時代到来」とあおってしまったくらい、今シーズンの日本男子の活躍ぶりは目覚ましい。シーズン開始直後からの4回転の連発に、「跳ばなければ国内でも勝てない」という焦燥感は、日本男子の誰もが感じていたはずだ。羽生結弦(東北高)や町田樹(関西大)の奮闘をかわして、ファイナルに進んだオリンピアン3人にしても、「今年はこの3人でA代表は決まりかな」と見えてはいたが、それでも追いかけられる側のつらさは大きかったのだろう。2連勝という最高の形でファイナルに進み、今季初めて高橋や織田と相まみえる小塚崇彦も、「国内3番手」からの脱皮をぜひこの北京で図りたい、そう願って意気込んでいたのかもしれない。
小塚「心残りのある試合になってしまった」
気持ちが演技に反映されるも、3位で表彰台に上がった小塚 【坂本清】
「高橋選手にしてしまったことで、僕の中では心残りのある試合になってしまいました。逆に気を使ってくれた彼には感謝しています。今後はこのようなことがないよう、本当に気をつけたいと思いますし、そのことは高橋選手にも(高橋のコーチの)長光先生にも誓いました」(フリー後コメント)
自分のミスで試合前に他の選手の調子を崩してしまったこと。しかも日ごろから慕っている「大ちゃん」を傷つけてしまったことに、小塚は見ていて気の毒なくらい気落ちしてしまっていた。それでもSP、フリーを通して大きなミスがなく、フリーでは4回転も着氷したことは立派。しかし気持ちの陰りは演技にそのまま反映されてしまい、エリック・ボンパール杯で見た一分のすきもなくスケーティングが輝いていた演技に比べれば、プログラム全体の流麗さは少し失してしまったようだ。これがもし気合い十分で、今持てる彼のスケーティングスキルと身に付けはじめたプログラム表現をそのままぶつけることができたら……優勝したパトリック・チャン(カナダ)とどんな勝負をしていただろうかと、残念に思いながらも想像してしまう。