FC東京、厳しくも降格の現実と向き合って=1年での復帰を目指してJ2へ

後藤勝

降格の危機をリアルに感じられずに迎えた最終戦

降格が決まりぼう然とするFC東京の選手たち。最終節の前に残留を確定させられなかったことが響いた 【写真は共同】

 京都サンガF.C. 2−0 FC東京。浦和レッズ 0−4 ヴィッセル神戸。最終節で順位は逆転し、FC東京のJ2降格が決まった。

 椋原健太は無言でミックスゾーンを通り過ぎた。止めることができなかった。囲み取材の場で、羽生直剛の口からは「信じられない」というつぶやきが漏れる。権田修一は「試合が終わり、ベンチの雰囲気を見て“うそでしょ?”という感じだった」と衝撃の瞬間を振り返った。今野泰幸はテレビ会見が終わった後、ペン記者に囲まれると「ぼう然というか。何も考えられない、何もやる気が起きない。力が抜けるというか、そんな感じです」と、心理的なダメージが大きかったことを包み隠さずに述べた。

 記者同士顔を見合わせても、ファン、サポーターとばったり会っても、口をついて出るのは「まさか、こんなことになるとは……」という驚きの言葉ばかり。

 FC東京は、確かに残留争いはしていた。J2に降格してはいけないと思い、監督を交代し、リーグ戦残り11試合を戦ってきた。
 しかしこのクラブは、ピッチで戦う選手から、彼らを取り巻くファン、メディアに至るまで、すぐそこまで降格が迫っているという危機をリアルに感じられないままに、最終節を迎えてしまったのではないだろうか。

 第33節のモンテディオ山形戦に勝ってさえいればその時点でJ1残留が確定し、最終節・京都戦の過緊張はなかった。
 山形は第32節で残留を決めていた。大宮アルディージャも第33節のアルビレックス新潟戦に引き分けて最終節よりも前に残留を決めている。
 残留争いに慣れているチームは、真に危険な試合が訪れる前にカタをつけている。「この試合に引き分けで終われば降格」という状況そのものが、すでに降格に等しいことを知っているからだろう。

 大宮が鈴木淳新監督の就任を発表したのは4月27日。ワールドカップ・南アフリカ大会の中断期間が迫る前に新監督に命運を託し、チーム改革に着手した。
 夏の登録ウインドーが締め切られる前には鈴木規郎、李天秀(イ・チョンス)、李浩(イ・ホ)を獲得。ケガから復帰したラファエルも効果的なプレーを見せ、最終順位12位に滑り込んだ。
 少しでも手前でJ1残留を勝ち取るための努力を、大宮は惜しまなかった。

代表選手がそろっていることは順位を担保しない

 大熊清監督は共同記者会見でこう語った。
「クラブ、チームの、怖さ、底力、パワーが問われていると思います。11人だけでなく交代選手だったり、いろいろな部分のパワーが不足していた。(サッカーの持つ)怖さを跳ねのけることができなかったことが、結果につながったのだと思います」

 ピッチ内の戦術の上には、ピッチ外の「戦略」が位置する。いくら戦術的に正しい手を打っていたとしても、戦略に大きな瑕疵(かし)があれば、その損失を補うには至らない。

「大竹(洋平)が入って少し流れが変わったと思うんですけれども、それを引きずり込めなかった、かつ、みんなのそういう気持ちの焦りが、正直超越しちゃったというか。まだ落ち着けばいいところを、というのは非常に感じています。ただ、想定以上にプレッシャーなり1点の焦りがメンバー交代をも超越していたというのは、正直感じています」

 大熊監督は「超越」という言葉を使った。東京イレブンが西京極で置かれていた状況とは、もはや選手たちが自力で覆せないだけの圧倒的な劣勢だったのだ。
 選手たちを脅迫する包囲網については、今野の言葉が的確に物語ってくれている。
「神戸がすごく勢いがあって、追い上げてきて。僕らも勝たなくてはいけない状況が続いて。追われる身というか、そういうプレッシャーもあったし。毎試合毎試合、すごい重圧となって……」

 しかし言い方を変えれば、外部の状況を覆せるだけの底力を選手たちが持ち合わせていなかったのだということにもなる。

「いろんな面が足りなくてこうなったと思いますし。シーズンを通して自分たちがやり切れなかったからでもあるでしょうし。リーグ戦ではチーム力が順位につながる。それを受け入れなきゃいけないですね」(羽生)
「僕らの力が足りなかったというだけだと思います」(今野)
「自分の責任だと思っています」(平山相太)

 日本代表、年代別代表選手を数多く抱えるチームなのに、なぜ降格に至ったのか。こう問われた権田は、その問いそのものに答えを見いだしていた。
「個人の能力は高いのに、と言われてしまうこと自体がこうなった原因かもしれない。そう言われるチームでは厳しい。強いチーム、例えば名古屋グランパスは“チームとして”というところにフォーカスされるじゃないですか」

 強い者が勝つのではない。勝った者が強いのだ、と言ったのは誰だったか──。その伝でいけば、最終順位16位のFC東京は「弱いチーム」だった。代表選手が数多くそろっていることそのものは、決して順位を担保しない。

「声は掛け合っていたけど、戦術的な部分では修正できていなかったと思います」(平山)

 パワープレーで点を取ろうと意思統一はできていた、と選手たちの何人かは言う。あの後半の状態を見て「焦りで自滅した」という評論は、ただ単に運悪く決まらなかっただけの無得点を受けての結果論なのかもしれない。
 しかし本来ゴールの近くでプレーすべき大竹が、すっからかんになった中盤の真ん中で「リンクマン」と化していた状態は、はた目にはカオスと映っても仕方のない事態ではなかったか。

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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