アジア制覇狙う韓国、「夢見心地」の日本を迎え撃つ=反体制派の新指揮官に率いられて

吉崎エイジーニョ

「韓国サッカーを世界化したい」

チョ・グァンレ監督は「韓国サッカーを世界化したい」と宣言し、目指すスタイルを説明する 【スポーツナビ】

 7月22日の就任会見では、当然以前の反体制的な態度への指摘が出た。「サッカー関係者がひとつになり、新たな目標に向かう時だ」と返し、アジアカップ優勝へ向け協会と一丸になることを宣言した。
 8月11日、初陣の相手はナイジェリアだった。南アでもグループリーグで対戦した相手だ。大韓協会としては、手短に「国内ファン向け・南ア感謝祭」を済ませる狙いがあった。一方のチョ新監督にとっては、当座の目標アジアカップまでに一刻も早く国内ファン相手にやりたいサッカーを示す必要があったゲームだ。地上波での試合中継前、事前に収録したインタビューの内容が流れた。そこには図を使って、わかりやすく目指すスタイルを説明するチョの姿があった。

「韓国サッカーを世界化したい。テンポが速く、頭を使った世界基準のサッカーだ。そのためにはショートパスが重要だと考えている」
「基本フォーメーションは3−4−3。しかし、既存の3−4−3とは違う」
「3バックの中央は攻撃時には、MFのラインまで上がる。実質上の4バック、あるいは2バックとなる時間帯もあるだろう」
「3トップは既存の韓国サッカーに多かった、ウイングが開く形ではない。1トップ2シャドーだ」
「2シャドーは時に、ダブルボランチとともに4人で『第2の中盤』を形成する」
「1トップには外に流れる動きも期待したい。その時、2シャドーが最前線のスペースに飛び出す動きを見せてほしい」

 メディアはこれを「チョ・グァンレ式トータルサッカー」「スペインを模倣としたやり方」「考えるサッカー」と期待感を込めて評している。2シャドーの一角で起用されるイ・チョンヨンは「完成すれば、漫画のようなサッカーになる」と表現した。

「ポスト南ア時代」の流れに大きな影響を及ぼす

 かくして臨んだ初陣のナイジェリア戦では、2−1の勝利。初代表のユン・ビッカラムが先制点を挙げ、新監督の若手抜てきの手腕が早くも発揮された。また、決勝ゴールとなった2点目は、パク・チソンが右サイドにスルーパスを通し、攻撃参加した右アウトサイドのチェ・ヒョジンが右足で決めたもの。4バックよりも両アウトサイドが高い位置を取る3バックの利点が生きたものだった。
 しかし、「アジアカップの前哨戦」(チョ監督)として臨んだ第2戦、イラン戦(ホーム/9月7日)では、0−1の敗北。「ピッチコンディションが悪すぎた」(同)と嘆いた状態にあって、目標とするパスサッカーをまったく発揮できなかった。国内メディアからは大きな批判は出なかったが、戦術上の要となるべき2シャドーについては「かみ合わなかった」とマイナス評価を下されている。

 南ア後の日韓両国の流れを比較するならば、「堅実」の韓国と、「夢見心地」の日本と表現できる。韓国は7月に新目標と新監督を定め、8月に国内への顔見世を済ませた。9月以降はイラン、日本とアジアカップをはっきりと意識したマッチメークを続けている。一方の日本は、新監督就任まで時間をかけ、「南ア感謝祭」的なムードが9月まで続き、さらに10月8日のアルゼンチン戦では夢を見た。
 12日の試合は、そんな両国の「ポスト南ア時代」の流れに大きな影響を及ぼすゲームになるだろう。日本が勝てば夢を見続けられる。一方、韓国が勝てば……両者の立場がひっくり返ることもあり得る。そんな位置付けのゲームになるに違いない。

 話は戻って、冒頭のチョ監督による「日本対策」の話。監督は中盤の争いを優位に進めるため、パク・チソンのボランチ起用を示唆している(編集部注:チョ・グァンレ監督は前日会見で、けがのためパク・チソンの欠場を明言。代役にユン・ピッカラムの起用を考えていると話した)。さらにシステムも4−1−4−1に変更する可能性がある。あくまで堅実な方法で、夢を見ようとしているのだ。

<了>

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著者プロフィール

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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