イチローのライバルが語る記録の重み=10年連続200安打を追って DAY2

木本大志

イチローが胸を熱くした祝福

シーズン200安打を5度記録し、イチローもライバルと認めるレンジャーズのマイケル・ヤング 【Getty Images】

 昨年、テキサスでのレンジャーズ戦で9年連続200安打を達成したイチロー。シリーズ初戦が雨で流れ、その日はダブルヘッダーだったが、雨にたたられ、1試合目が始まったのは、夕方だった。

 2試合目で大台に乗せたが、試合後、イチローはケン・グリフィーに担がれて、シャワールームへ。そこではビールを持ったチームメートが待ち構えていた。

 会見で何がうれしかったかを問われたイチローは、そのことを真っ先に口にしたが、そのあとでしんみりと言ったことが、今でも印象に残る。

「マイケル・ヤングがダグアウトから『おめでとう』って言ってくれて、あれはうれしかった」

 塁上で、テキサスファンの声援に応えたあと、一塁側のダグアウトから声を張り上げる選手がいたそうだ。一塁コーチを通して、それがイチローに伝わった。

 振り向けば、レンジャーズの主軸・ヤングが「Congratulations!」と言いながら、手を帽子のツバにやっている。イチローもヘルメットに手を添えて、それに応じた。

 ヤングとは、イチローが認める数少ないライバルの一人。こと200安打に関しては、彼も2003年から07年まで5年連続でマークしており、イチローがおそらく、世界で唯一、その難しさを共有できる存在。

 その彼の祝福に、イチローは胸を熱くしたのだった。

「互いに尊敬し合っている」関係

 その約1年前の出来事を、昨日(現地時間19日)までシアトルを訪れていたヤングに「覚えているか?」と聞けば、「もちろん」とうなずいた。

「一言、『おめでとう』って言いたくてね。僕も200安打を打つ苦しみ、その難しさは理解しているつもり。敵味方に関係なく、彼にはお祝いの言葉を掛けたかったんだ」

 イチローとは、どんな関係だと言えるのか?
 そんな問いに「彼とはもう長いし、かといって食事をしたりするような仲じゃないけど、互いに尊敬し合っている」と話したが、互いをつなぐ最大のパイプは、やはり「200安打」だろう。

 その意義については、言葉を交わさずとも2人は分かち合える。

「1回だけでも大変なこと。名選手と言われる選手だって、一度も記録することなく、ユニホームを脱ぐことがある。それを――もうすぐ10年連続だろ……。その大変さは僕がよく知っている」

 似た者同士。幸か不幸か、チームが低迷しているときに、安打を重ねる難しささえ、彼らは共有していた。

「確かに、低迷している中で狙う記録としては難易度が高い。結果として、それだけを考えてしまうことがある。そうなると目標がますます遠く見えるから」

 英語には、“A watched pot never boils”ということわざがある。直訳すれば、「待っていると、決してお湯は沸かない」――だが、「そればかりを考えていたら、そこにはなかなかたどり着かない」と意訳できる。

 ヤングの言葉を受けて、ボソッとそんな言葉を漏らせば、彼は笑った。

「イチローの数字を見れば明らか」

 ところで、低迷の中で個人記録を追うことは、ときにゆがんだ感情を生む。それが日米通算3500安打達成時に、イチローがセレモニーを辞退した理由の一つでもあるが、そんな周囲の感情に関してもヤングは理解を示した。

「そう考える人には、逆の考え方をしてほしいと思う。低迷しているからこそ、彼のような選手は個人記録を狙うべきなんだ。だって、ファンは何を見に来るんだ? その選手の最高のパフォーマンスだろう? 選手として追求すべきことを、イチローはしているまでじゃないか」

 そのまま、日米通算の解釈にもなったが、ピート・ローズが「日本の野球は3Aに過ぎない」と話したことなどについては、彼も苦笑した。

「そうじゃないことは、イチローの数字を見れば明らかなのにね」

 イチローが日米通算3500安打に達したのは、その夜のことだ。

 すでに触れたように、昨年は9年連続200安打をヤングの前で達成。2年前は日米通算3000安打を、やはり彼の前で打った。

「記録を達成するのは構わないけど、できればレンジャーズ戦は避けて欲しい(笑)。でも、続いている? そうだねえ……」

 あえて狙う、ということはもちろんないだろうが、ライバルと認めた存在の前で節目にたどり着くことは、やはり、イチローにとって特別な意味を持つのではないか。

 200安打まであと7本。1試合約1.4本というイチローのメジャーでのヒットペースから計算すれば、到達は今週末のレイズ戦だが、そこで達成できないとなると、記録はその次の遠征地、テキサスでのレンジャーズ戦に持ち越しとなる。

 浅からぬ縁。ひょっとしたら、ひょっとして今年も?

<了>
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