イチローのライバルが語る記録の重み=10年連続200安打を追って DAY2
イチローが胸を熱くした祝福
2試合目で大台に乗せたが、試合後、イチローはケン・グリフィーに担がれて、シャワールームへ。そこではビールを持ったチームメートが待ち構えていた。
会見で何がうれしかったかを問われたイチローは、そのことを真っ先に口にしたが、そのあとでしんみりと言ったことが、今でも印象に残る。
「マイケル・ヤングがダグアウトから『おめでとう』って言ってくれて、あれはうれしかった」
塁上で、テキサスファンの声援に応えたあと、一塁側のダグアウトから声を張り上げる選手がいたそうだ。一塁コーチを通して、それがイチローに伝わった。
振り向けば、レンジャーズの主軸・ヤングが「Congratulations!」と言いながら、手を帽子のツバにやっている。イチローもヘルメットに手を添えて、それに応じた。
ヤングとは、イチローが認める数少ないライバルの一人。こと200安打に関しては、彼も2003年から07年まで5年連続でマークしており、イチローがおそらく、世界で唯一、その難しさを共有できる存在。
その彼の祝福に、イチローは胸を熱くしたのだった。
「互いに尊敬し合っている」関係
「一言、『おめでとう』って言いたくてね。僕も200安打を打つ苦しみ、その難しさは理解しているつもり。敵味方に関係なく、彼にはお祝いの言葉を掛けたかったんだ」
イチローとは、どんな関係だと言えるのか?
そんな問いに「彼とはもう長いし、かといって食事をしたりするような仲じゃないけど、互いに尊敬し合っている」と話したが、互いをつなぐ最大のパイプは、やはり「200安打」だろう。
その意義については、言葉を交わさずとも2人は分かち合える。
「1回だけでも大変なこと。名選手と言われる選手だって、一度も記録することなく、ユニホームを脱ぐことがある。それを――もうすぐ10年連続だろ……。その大変さは僕がよく知っている」
似た者同士。幸か不幸か、チームが低迷しているときに、安打を重ねる難しささえ、彼らは共有していた。
「確かに、低迷している中で狙う記録としては難易度が高い。結果として、それだけを考えてしまうことがある。そうなると目標がますます遠く見えるから」
英語には、“A watched pot never boils”ということわざがある。直訳すれば、「待っていると、決してお湯は沸かない」――だが、「そればかりを考えていたら、そこにはなかなかたどり着かない」と意訳できる。
ヤングの言葉を受けて、ボソッとそんな言葉を漏らせば、彼は笑った。
「イチローの数字を見れば明らか」
「そう考える人には、逆の考え方をしてほしいと思う。低迷しているからこそ、彼のような選手は個人記録を狙うべきなんだ。だって、ファンは何を見に来るんだ? その選手の最高のパフォーマンスだろう? 選手として追求すべきことを、イチローはしているまでじゃないか」
そのまま、日米通算の解釈にもなったが、ピート・ローズが「日本の野球は3Aに過ぎない」と話したことなどについては、彼も苦笑した。
「そうじゃないことは、イチローの数字を見れば明らかなのにね」
イチローが日米通算3500安打に達したのは、その夜のことだ。
すでに触れたように、昨年は9年連続200安打をヤングの前で達成。2年前は日米通算3000安打を、やはり彼の前で打った。
「記録を達成するのは構わないけど、できればレンジャーズ戦は避けて欲しい(笑)。でも、続いている? そうだねえ……」
あえて狙う、ということはもちろんないだろうが、ライバルと認めた存在の前で節目にたどり着くことは、やはり、イチローにとって特別な意味を持つのではないか。
200安打まであと7本。1試合約1.4本というイチローのメジャーでのヒットペースから計算すれば、到達は今週末のレイズ戦だが、そこで達成できないとなると、記録はその次の遠征地、テキサスでのレンジャーズ戦に持ち越しとなる。
浅からぬ縁。ひょっとしたら、ひょっとして今年も?
<了>
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