スポーツESG経営の現在地
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Bリーグとしてのキーワードは社会性とB.HOPE
図表1の通り、Bリーグは経営・強化・社会性を重要指標として掲げていますが、その中でも本コラムでは「社会性」に焦点を当ててみたいと思います。なぜなら、クラブが地域課題解決や地域活性に貢献できる存在となることは、中長期的な視点で非常に重要となるものの、まだまだリーグ・クラブとしてもアクションが必要な領域であると感じるからです。
社会性という観点では、Bリーグは「B.HOPE」という活動を主導しています。図表2のように、Off-Court 3Point Challengeをコンセプトとして、「PEOPLE(人類)」「PEACE(平和)」「PLANET(地球)」という3つの領域で、クラブ・選手・ファン・地域・パートナー企業の方々を巻き込んでともにSDGsの実現を目指しています。ただ、各クラブの取り組み事例を集約する枠組みはあるものの、欧州のように「温室効果ガス(GHG)排出量」「資源」「社会的責任」といったカテゴリーごとのサステナビリティ方針の定義や、定期的な評価・報告は行われていない状況であると思われます。
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ESG経営の中で収益源となる要素はEから
Bリーグでは、リーグが主導して気候変動に対して取り組む活動は確認できませんが、B.HOPEにおける「PLANET(地球)」の領域で、プラスチックゴミを減らしていく働きかけを行うことを検討しているようです。一方で、各クラブでは気候変動についての取り組みが進められていて、その活動は大きく2種類のアプローチに大別することができます。
各クラブのESG経営(E:気候変動など)におけるアプローチの類型
もう1つのアプローチの類型は、佐賀・秋田・信州など、ホームタウンに支えられているクラブの取り組みであり、運営会社にも大企業の参画が確認できないケースのものです。これらのクラブは、いずれも地域に根差す形で、アカデミアや自治体、地域の企業を巻き込みつつ、それぞれの形で社会貢献の活動を行っています。いきなり全ての自治体ができるわけではなく、体力のある自治体がロールモデルとなり、横展開していく流れが主流になるものと思われます。
中でも、独自の社会貢献のモデル構築(以下、佐賀モデル)を目指している佐賀バルーナーズ(以下、佐賀B)の事例は興味深いものとなっています。2023年10月に九州大学・都市研究センターとのESG経営に関する包括的な取り組みとして連携することを発表していて、クラブが地域の大学と協業して取り組みを主導し、地域創生の起因となる好事例です。
佐賀Bは、2022-23年シーズンでB2リーグを制し、B1リーグに昇格しています。最終戦では同じくB1に昇格した長崎と「SAGAアリーナ」で7,500人を超えるファン・ブースターとともに熱戦を演じたのは記憶に新しいところです。B.LEAGUE PREMIER基準を満たしている新アリーナとともにB1で迎える2023-24年シーズンを契機として、2026年からスタートするB.LEAGUE PREMIERへの参入、そして世界に誇れるクラブを目指すというクラブビジョンを描いています。B.LEAGUE PREMIER参入に向けた最大の課題は、中長期的な入場者数の確保であり、そのために佐賀モデルは不可欠なものであると佐賀Bの田畠寿太郎社長は語っています。
佐賀モデルを理解するには、佐賀県とスポーツの関係についても理解しておく必要があります。佐賀県では、2018年にSAGAスポーツピラミッド構想(図表4)がスタートし、その実現のための重点的な分野として、スポーツを「稼げる産業」と捉えた「スポーツビジネスによる新たな価値の創造」が挙げられています。佐賀BのB1昇格に加えて、バレーボール・Vリーグの久光スプリングスの練習拠点の佐賀移転、全国トップレベルのクライミング施設の完成、国民スポーツ大会「SAGA2024」の開催など、中長期的な構想にスポーツビジネスが沸き上がっています。
スポーツを成長産業と位置付ける佐賀県において、佐賀Bは、令和5年度 スポーツ産業の成長促進事業「スポーツオープンイノベーション推進事業(地域版SOIPの先進事例形成)」の参加スポーツクラブとして、地域経済に貢献するクラブの日常化、地域に寄り添うファンエンゲージメント創出をテーマとし、共創アイデアを募りました。つまり、佐賀モデルの目指すところとして、プロスポーツを最上位概念とし、その概念の下で、「共に稼ぐ」を、県内企業(中小零細~大手)、九州地域の企業、大都市の大手企業へ拡大、実現していくことを目指しているということです。Integrityを追求するスポーツビジネスだからこそ、長期目線でESG/CSVを捉え、地道に、確実に進めていくことが重要であるという哲学が根底にあると思われます。
上記の背景を読み解くと、クラブが、九州大学・都市研究センターとのESG経営に関する包括的な取り組みから着手した狙いが理解できます。ホームゲームに起因するCO2排出量の計測と可視化を行うだけではなく、CO2排出量の削減に向けた、佐賀県内および県外事業者との連携拡大により、地域特性を活かした、地域社会に経済的な好循環をもたらすような地産のカーボンクレジットの創出に意欲的に取り組むことを目指しています。さらには、スポーツが地域の旗印となり、「どう地域経済の強化に貢献したか」、「その一部をクラブに還元してもらった結果、地域のwell-beingはどう上がったのか」を数値化して、継続的にモニタリングすることも目指しています。これらは、いずれも手間も時間もかかることですが、世界的なアカデミアが集う九州大学・都市研究センターとの連携により実現できる可能性は高いと思われます。
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今後の指標・スポーツビジネスへの横展開
今回のコラムを通じて、Bリーグが現時点で主導的にESG経営における枠組みを各クラブに示していない中で、大資本の企業がバックにある都市圏のクラブと、地方創生の旗印となるクラブでは、クラブ経営の中でESG経営への取り組みのスタイルに違いがあることが見えてきました。佐賀Bのように「地方創生の旗印となるクラブ」としての動き方や目指すところを今回紹介することで、それに続くクラブが現れるきっかけのひとつとなり、Bリーグ全体や、クラブのある地域の活性化につながっていくことを期待しています。
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