藤井惠&浜崎朱加、女子格闘技の新時代を切り開け

スポーツナビ

女子格闘技の未来を担う最強師弟コンビ、藤井惠(左)と浜崎朱加にインタビュー 【田栗かおる】

 女子格闘技のパイオニア、第一人者、またはシンボルとして常にトップを走り続けてきた藤井惠。今年6月、新たなチャレンジとして米国ベラトールFCに乗り込み自身初のTKO勝利を収めると、エントリーされた8月の女子115ポンドトーナメント1回戦も、直前で対戦相手が変更となるアクシデントがありながら腕十字で一本勝利。米国格闘技ファンに“ニッポンのフジメグ”を浸透させた。
 一方、日本ではそのフジメグの後継者と目される期待のホープ浜崎朱加が、7月のジュエルス52キロ級トーナメント1回戦で一本勝利。韓国人選手を相手に師匠譲りの秒殺で、鮮烈なジュエルスデビューを果たした。

 スポーツナビは、女子格闘技の未来を切り開く師弟コンビを8.29Girls S−cupの会場でキャッチ。フジメグにはベラトールでの裏話や自身が米国に参戦することの意義、弟子・浜崎への期待を語ってもらい、一方の浜崎には総合格闘技を始めた経緯や意外な趣味にまつわるエピソードをたっぷり語ってもらった。

 2000年代の新しい「10年」のスタートを迎え、女子格闘技も新時代へ――。その舵取りを担うであろう2人に迫る。
 
 
――本日はよろしくお願いします。

藤井&浜崎「よろしくお願いします」

――さっそく藤井さんにお伺いしたいのですが、まずは先日のベラトールFC、トーナメント1回戦の勝利おめでとうございました。

藤井「ありがとうございました(笑)」

――ただ色々とトラブルがあったみたいで、いきなり対戦相手が変わったとのことでしたが、これはアメリカに着いてから聞かされたことだったんですか?(編注:アンジェラ・マガナの負傷によりカーラ・エスパルザに変更)

藤井「出発2日前くらいに相手がケガをしたから変更になるかもしれないと聞いていて、結局その時は相手が『試合をする』とは言っていたみたいなんですけど、サインはしていなかったみたいで、『とりあえずアメリカに来てくれ』って言われていたんです(笑)。それで結局、最初決まっていた相手が試合をできないということになって、対戦相手が変更になりました」

――なるほど。ほかにもアメリカに着いた直後に携帯電話を紛失されたとか……

藤井「あぁ(笑)」

――試合前からそういったトラブル続きに見舞われて、精神的に「もうイヤだなぁ」というふうにはならなかったのでしょうか?

藤井「そうですね、基本ネガティブなんで普段から色んなことをポジティブに考えるようにしていて、まあ、携帯を落としたりとか、ほかにも飛行機の乗り継ぎでミスして乗れなかったりとかもあったんですけど、でもこれは『のんびり行こう』ってことなのかなって思ったり、『携帯とかも触んないで試合に集中しろ』ってことなのかな(笑)って、いう感じで前向きに考えていきました」

トラブル続きの中でつかんだ勝利、とにかく負けたくない気持ち

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――本番の試合では2R57秒、腕十字で一本勝ち。この結果だけを見ると快勝だったように思えますが、実際は相手がすごく強くて、テークダウンもなかなか取れないキツイ展開だったようで

藤井「そうですね。基本的にやっぱり私はグラップラーなので、テークダウンから寝技に持っていきたい戦い方なんですけど、今回の相手がレスリングで2年連続オールアメリカンを取っている選手で、腰も強いし、もちろん気持ちも強いし、フィジカルもすごく強かったですね」

――直前で対戦相手が変わると、一般的には最初に決まっていた相手よりも少しレベルが落ちる選手が来るのかなと思ってしまうんですが

藤井「だいたい普通はそうじゃないですか(笑)」

――はい(笑)。それが、実際変更になった相手と試合してみたら、すごい強かったと。

藤井「はい(笑)。最初の対戦相手は、私と同じ日に試合をして1回戦を勝っているジェシカ・アギュラーにも勝っている強い選手だったんですよ。トータル的にいろいろやってくる選手だったんですけど、まあ、彼女よりも強い選手が来ることはないかなと思っていたら、変更となった相手がアスリート的な強さと言いますか、体の強さとか、ちょっとやりづらかったですね。自分の得意な形に持っていけないっていうのが苦しかったですね」

――直前での変更ですから対策もうまく進まなかったと思います。

藤井「そうですね。そういう相手だったら、作戦とかをもうちょっと変えていかないといけませんし、アメリカに着いてから色々と考えはしたんですが」

――異国の地で、対戦相手が変わったり、携帯電話や飛行機の乗り継ぎなど色々とトラブルがあった中でも、試合で勝利までたどり着けた要因は、今振り返ると藤井さんの中では何が大きかったと思いますか?

藤井「とにかく負けたくないという気持ちが一番ですし、やっぱり試合に出るにあたって色々とサポートしてくる方たちや応援してくれる方もいたので、携帯落としたとか飛行機とかそういうことでへこんで、そんなしょうもないことで精神を左右されて負けるなんて考えられなかったですから。それに“戦い”は“戦い”なので、とにかく頑張ろうと思っていました」

――その後、赤野仁美選手がストライクフォース・チャレンジャーズのトーナメントで優勝して一緒に帰国できたら最高だったんですが、惜しい結果に終わりました。

藤井「そうですね。決勝で負けてしまったのは残念だったんですけど、初戦はしっかり一本勝ちして、彼女らしい戦い方してくれたと思います。今までと比べても試合に臨むにあたってすごく落ち着いて集中していましたし、試合内容もそうなんですが、その前後も彼女のことを見ていたら、いい意味ですごく仕上がりが良かったですからね」

――今年の夏は藤井さんの中でいろいろな思い出ができたのかなぁという感じでしょうか?

藤井「そうですね(笑)。いい思い出っていうのは、なんかうまく行かないところから始まるものですし、その方が忘れないものですから。スムーズにうまく行きすぎたことって、だいたい忘れちゃうものですけど、思うようにいかなかったり、困難だったことってずっと忘れないと思います」

運動不足解消とダイエット目的でたまたまAACCに

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――では続いて浜崎さんに色々とお話を伺いたいのですが……

浜崎「あ……、はい、よろしくお願いします。すみません、ボーっとしてました……」

藤井「いつもだいたいボーっとしてるから、アハハハ(笑)」

浜崎「大丈夫です。今の話、ちゃんと聞いてましたから(笑)」

――(笑)えっと、それではまず前回のジュエルスのライト級トーナメント1回戦はおめでとうございました。

浜崎「ありがとうございました」

――基本的なことをお聞きしたいのですが、総合格闘技を始められたのはいつごろだったんでしょうか?

浜崎「打撃も含めてということだと、去年の春ぐらいです」

――AACCに入られたのはいつごろでした?

浜崎「2年半ぐらい前だったと思います」

藤井「そう考えると、けっこう長いんだね」

浜崎「来ていない期間もありましたから……(笑)」

――(笑)。総合格闘技を始めるにあたって、なにかきっかけがあったんですか?

浜崎「富田里奈というAACCの選手ともともと知り合いだったんですが、総合格闘技をやっていると聞いて、女の人でも総合格闘技やる人っているんだと知って、ダイエットと興味半分で体験に行きました」

――それまでは何かスポーツとか格闘技的なことはやっていたんですか?

浜崎「高校から大学と柔道をやっていて、AACCに体験に行ったのは柔道をやめて2年くらい経っていた時期ですね。大学を卒業した後は実業団みたいなところでやっていたんですけど、1年半くらいでやめて、その後は特に何もしていなかったですね。完全な運動不足だったので、総合格闘技をちょっと体験入門してみようと(笑)」

――総合格闘技にはもともと興味を持っていたりしたんですか?

浜崎「テレビでやっていると見ていましたね。でも、女性の総合格闘技があるなんて全然知らなかったです。存在すら知らなかったです」

――へぇ〜。それじゃあ、AACCという大きなジムだからとか、藤井さんがいるからという理由ではなく、単純に友だちの富田選手がいたからAACCに行ったと。

浜崎「はい、そうです。そんな感じです」

藤井「だから格闘技とか全然知らなかったよね」

――そこから本格的に総合格闘技やってみようと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?

浜崎「いえ、特にないです……え? なんだろう? 試合ということですよね。寝技をずっとやっていて『グラップリングの試合があるけど、どう?』と言われて、『じゃあ出たいです』と、そんな感じですかね」

――グラップリングの試合に出ているうちに、じゃあ次は打撃ありもやってみたいとなっていったということですか?

浜崎「えーっと、なんだろう? なんか急に打撃もやってみたいなと思い始めましたね。火曜日が打撃の練習なんですけど、誰かに誘われて1回出たことがあって、それがすごく楽しかったんですよ。自分が何もできないのが楽しくて、そのうちに打撃ありの試合もと思うようになりました」

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――藤井さんから見て、浜崎さんの第一印象と言いますか、最初の印象で何か憶えていることってありますか?

藤井「なんかいつの間にか連れられて来ていたというか、アハハハハ(笑)。でも、やっぱり体型とかがしっかりしていたので、スパーリングに入っても、それまでは柔道で胴衣を着てやっていたのが今度は胴衣を着ないでやるから、普通だったらあたふたしちゃうのに、自分の動きでちゃんと動いていましたし、反応もすごく良かったですね。柔道をやっていた子がみんな総合に向いているかというと、絶対にそうではないんですけど、そういうものを“持っている子”だなぁっていうのは感じましたね」

――それは浜崎さんが試合に出るとかそういう時期よりももっと前から藤井さんが感じ取っていたことですか?

藤井「そうですね。反応の仕方とか、教えてできることではないですし、逆に教えなくてもパッと体が反応したりとかしていましたね。危ないところにいないと言いますか、そういうことって大切ですから」

――最初にスパーリングとかをやってみた時から、「持っている子だ」と感じたと。

藤井「はい、そうですね」

――そこから藤井さんがプロの道へと誘導じゃないですが(笑)、うまいこと道を敷いてあげたということでしょうか?

藤井「いえいえ(笑)。ただ、長く続けてもらいたいなぁとは思っていたので、逆になるべくそういうことは言わないようにしました(笑)。好きなときに来て、好きなだけ動いていってくれればいいなぁと。だんだんとやる気が出てきたら、ちょっとずつ進めていってもいいかなと思っていたので」

――浜崎さんの打撃ありのプロの試合は修斗(09年10月25日)と前回のジュエルスで2試合経験されたわけですが、実際にやってみて、打撃ありの総合ルールはどうですか?

浜崎「楽しいですね、やっぱり。立ち技も全部ありなので、怖いんですが、打撃がまだ全然ダメなので、もっと強くなりたいですね」

――藤井さんから見て、浜崎さんのここをこうすればもっと強くなる、ってポイントはどこでしょうか?

藤井「今のまま練習していって、結局は練習量だと思うので、たくさん練習して、反復して、あとは打撃とか立ち技に対してですね。寝技とかもそうなんですが、得意なのは得意で、それで全部極めれちゃうくらい得意なものを持っているので、それ以外の新しい技をどんどん出せるようになったら、今でも十分強いんですが、もっと強くなりますね」

――浜崎さんがそうやって着実に強くなっていくのは、指導者の立場としてはどういう思いで見ていますか?

藤井「楽しいですよね、やっぱり。どんどん強くなっていくのが分かりますし、今はトーナメントもあって頑張って練習も来ているので、伸びシロが一気に上がっているのが分かりますね。あと、打撃は不得意だとは思うんですけど、当て勘とか感覚とかって、もともと持っているものだと思うんですよ。今はちょっと悩みながら考えながら打撃を出しているのを、もうちょっと自信を持ってスムーズに出してあげられるようにしたいなと思いますね。でも、当て勘とかはすごくいいモノを持っていると思うので」

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