原博実からザッケローニへ=日本代表 2−1 グアテマラ代表

宇都宮徹壱

対戦相手グアテマラについて

森本の2ゴールで楽勝ムードが漂ったが、3点目は最後まで奪えず、やや物足りなさが残った 【Getty Images】

 グアテマラという中米の小国について、私たち日本人が知っていることはあまりにも少ない。ヨーロッパ人がやって来るまではマヤ文明が栄え、国民の過半数はマヤ系のインディオであること。つい最近(1996年)まで内戦があったこと。決して豊かな国ではないこと(貧困層は全人口の半数以上を占めるといわれる)。むしろグアテマラ代表が来日した直後に発生した、豪雨による土砂災害の方がわれわれの注目を集めた感がある。6日の時点で死者は44人、被災者数は4万人を超えると報じられた。

「よく分からない」グアテマラは、サッカーに関しても同様である。ワールドカップ(W杯)の出場は皆無。CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)が主催するゴールドカップでも、96年のベスト4がこれまでの最高成績である。別格の存在であるメキシコを除けば、コスタリカ、ホンジュラスに続く中米の第3勢力と見てよいだろう。最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングは119位。すなわち、フェロー諸島とシンガポールの間と考えれば、その実力はおのずと理解できるだろう(ちなみに日本は32位)。

 そんなグアテマラと対戦することが、果たして日本の強化にどれだけつながるのか。いささか疑問の残る今回のマッチメークについては、2022年のW杯招致活動の一環と見るのが一般的だ。グアテマラはパラグアイと同様、FIFAに理事を送り出している。「あまりに政治的だ」という意見もあるかもしれないが、個人的には「日本もこういうマッチメークができるようになったのか」と、むしろ深い感慨を覚える。2018年と22年のW杯開催国が決まるのは、12月2日。残り3カ月を切った今見せる、W杯招致をめぐる水面下の戦いは、間もなく佳境に入る。

 さて、今回来日したグアテマラ代表のメンバーは、全員が国内組。国際的に有名な選手はひとりもいない。むしろ注目すべきは、監督のエベル・ウーゴ・アルメイダ・アルマガであろう。アルメイダの名で知られるこのパラグアイ人指揮官は、少なからず日本と縁がある。現役時代の90年、南米王者オリンピア(パラグアイ)の正GKとしてトヨタカップで来日(オランダトリオを擁したミランに0−3で敗れた)。それから9年後には、パラグアイ代表監督としてコパ・アメリカに出場し、当時のトルシエ監督が率いる日本代表に4−0と完勝している。グアテマラ代表監督に就任後、最初の国際試合の相手が日本となったことに、おそらく当人も何かしら期するものを感じているのかもしれない。

楽勝ムードから一転、遠すぎた3点目

 そんなグアテマラ代表を迎え撃つ日本代表だが、けがやコンディション不良、そして所属クラブの都合などで、5人がチームを離脱。この試合は、残った17人で戦わなければならない。すでに原博実監督代行は「できるだけ多くの選手を試合に出す」としており、具体的には「センターバックは岩政(大樹)と槙野(智章)、そして永田(充)でいく」とまで言明している。結果、この日のメンバーは非常にフレッシュな顔ぶれとなった。GKは腕章を巻いた楢崎正剛。DFは右から駒野友一、岩政、槙野、長友佑都。守備的MFに橋本英郎と細貝萌、右に香川真司、左に乾貴士、トップ下に本田圭佑。そしてワントップに森本貴幸。所属クラブや出身地など、関西にゆかりがある選手が6人も名を連ねているのは偶然なのか、それとも原監督代行の粋な計らいなのか。いずれにしても、危うさと可能性の両面が感じられる顔ぶれとなった。

 試合序盤は、日本がグアテマラを圧倒。12分には早々と先制する。左サイドでの乾と香川のパス交換から長友が抜け出し、ドリブルを挟んで正確なクロスを放つと、これを森本が頭で合わせてネットを揺らす。森本の代表でのゴールは、昨年10月の対トーゴ戦以来、これで2点目。だが、この日はこれで終わらなかった。20分には本田からのスルーパスを受けた香川が、今度は右サイドを駆け抜けてシュート。ボールはいったんは相手GKにはじかれるも、走り込んでいた森本が反射的に左足で押し込み、うまくゴール左隅に流し込む。これで2−0、スタンドは一気に楽勝モードに包まれた。しかし敵将アルメイダは、序盤の2失点について、次のように語っている。

「最初の20分は、日本がどういう出方をするか、猶予を与えてしまい、相手に支配されてしまった。日本は自由に、自分たちがしたいように試合を運ぶことができた。その後、われわれはプレスを掛けるようになり、試合の均衡を保つことができた」

 歓喜から2分後、グアテマラが反撃に出る。日本の自陣でのパス回しをインターセプトすると、すかさず前線にボールが渡り、これをFWマリオ・ロドリゲスが右足でシュート。岩政の寄せは遅く、弾道は楢崎の指先をすり抜けてゴールに吸い込まれる。その後もグアテマラは、素早いプレスと思い切りのよいミドルシュートで、臆することなく日本に挑んでくる。やはりFIFAランキングはあてにならない。前半は2−1で終了。

 後半、日本ベンチは長友と乾を下げて、永田と藤本淳吾を投入。さらに後半20分には香川に代えて岡崎慎司を送り込むも、なかなか3点目を奪うことができない。逆にグアテマラはポゼッションを高めて、際どいシュートを放っては日本の守備陣を慌てさせた。ここは中盤でゲームを落ち着かせ、交通整理ができる人材が必要である。そう、中村憲剛だ。だが彼が所属する川崎フロンターレは、8日にナビスコカップ準々決勝第2戦を控えている。原監督代行も技術委員長としての立場から、なかなか最後の切り札を投入する踏ん切りがつかない様子。結局、中村憲がピッチに立ったのは後半38分のことであった。ここから日本は見違えるように攻撃のリズムを取り戻し、何度も相手ゴール前まで殺到するものの、放たれるシュートはいずれも歓喜を呼び起こすことなく、そのまま終了のホイッスル。勝つには勝ったが、何とも歯切れの悪いエンディングであった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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