原博実からザッケローニへ=日本代表 2−1 グアテマラ代表

宇都宮徹壱

9月シリーズの成果と課題とは

9月シリーズを2連勝で飾り、指揮権は原監督代行からいよいよザッケローニ監督に引き継がれる 【Getty Images】

「(監督代行としての)一番の仕事は、うまく(ザッケローニ監督に)引き継ぐことだと思っていましたので。選手たちも厳しいコンディションだったとは思いますけど、モチベーション高くやってくれた。いろいろあった割には、いい流れで引き継げたんじゃないかと思います」

 試合後の会見に臨んだ原監督代行の表情は、疲労感の中にも「できることはやりきった」という密やかな充足感が見てとれた。監督不在に始まって、ハードスケジュール、連係不足、けが人続出。監督代行を引き受けてからは、一日も気が休まることはなかったはずだ。それでもこの9月シリーズでは、スタンドで多くの観客が見守る中、パラグアイとグアテマラに連勝し、しかも辞退者を除く招集メンバー全員をピッチに送り出して、ザッケローニ監督にお披露目することができた。もちろん、試合内容に不満がないわけではない。それでも、当初のミッションをしっかりと果たしたという意味で、原監督代行の仕事は十分に評価されてしかるべきだろう。

 あらためて、この9月シリーズで明らかになった成果と課題についてまとめておく。
 まず成果。W杯以後の日本が目指す方向性というものを、この2試合を通じて示すことができた。現状では「守備はW杯仕様、攻撃はよりワイドに展開してバリエーションのあるクロスからチャンスを作る」といったところか。この方向性に対し、ザッケローニ監督がどのように肉付けし、独自のカラーを出していくかが注目される。幸い、中盤と両サイドのタレントは、ある程度はそろっている。香川や長友など、欧州移籍によってさらなる成長が期待できる若い選手の存在も心強い。果たして新監督は、今回の2試合を通じて何を感じ、どんなプランを思い描いているのだろうか。

 課題については、その多くがこの日のグアテマラ戦で顕著に表れていた。すなわちそれは、選手層の薄さである。中盤では遠藤保仁と長谷部誠。ディフェンスラインでは中澤佑二と田中マルクス闘莉王。彼ら「代えの利かない」選手の不在を埋めることが、決して容易でないことは、今回の2試合で明確になった。特に中村憲が投入されるまでの中盤は、連動性がほとんど感じられず、やみくもにゴールを目指しては空回りするばかり。いくら即席チームであっても、アピールしようとするあまり連動性が失われてしまうのでは本末転倒である。こういう場面でゲームを落ち着かせ、リズムを作ることができるのが中村憲だけであったのは、いささか残念に思えてならない。

 ともあれ、こうした成果と課題は、そのまま原監督代行からザッケローニ監督へと、引き継がれることとなった。その初陣は、1カ月後の来月8日である。新たな代表の姿をあれこれ想像しつつ、まずは原監督代行には「お疲れさまでした」と申し上げたい。

楢崎の代表引退に寄せて

 もうひとり「お疲れさまでした」と申し上げたいのが、GKの楢崎である。長年、日本のゴールを守り続けてきたベテランは、この試合をもって代表からの引退を表明した。

 W杯直前に、守護神の座を川島永嗣に奪われた経緯を思えば、いつかはこういう日が訪れるだろうと思っていた。だが、それがまさかこのタイミングになるとは予想もしていなかった、というのが正直なところである。結果として、日本代表での楢崎の最後の雄姿を現場で目撃できたのは、幸運だったと思う。彼と川口能活が代表で切磋琢磨(せっさたくま)した時代――それこそ97年のW杯フランス大会予選から、2010年のW杯に至るまでの14年間は、われわれサッカーファンにとって一言で語り尽くせぬほど濃密な思い出が詰まっている。南アフリカの地で、川口がチームキャプテンとしての役割を全うし、そして今回、楢崎が代表引退を宣言したことで、間違いなくひとつの時代は終わりを告げることとなった。

 試合後のミックスゾーンでは「4回W杯に出て、20歳から代表に選ばれて、いろんな経験をさせてもらった。感謝しているし、何かこれから返していかないといけないなと思っている」と語っていたという。一方で「GKが全員いなくなったら(引退撤回を)考えようかな」と冗談も言っていたようだが、そうした困った事態になることはなさそうだ。今後は川島を筆頭に、西川周作(広島)、権田修一(FC東京)といった新世代のGKたちがしのぎを削ることになるだろう。

 実は私自身、会見後に遅れてミックスゾーンに入ったので、楢崎本人の肉声を聞くことはできなかった。その代わり、サンダル姿でリラックスしている表情を遠めから確認することはできた。その表情はいかにも自然体で、感極まったものは微塵(みじん)も感じられない。ひとつの仕事を終えて、淡々としているプロフェッショナルの姿が、そこにはあった。あらためて「動の川口、静の楢崎」という表現を想起する。楢崎の代表引退は「77」というキャップ数には似合わないくらい、実に静かで穏やかなものであった。

 かくして、中村俊輔に続いて楢崎も代表から去った。パラグアイ戦で素晴らしい働きを見せた中澤も、練習中のけがが全治6週間と診断された。10月の代表戦に選出されることはないだろうから、このままフェードアウトする可能性は十分に考えられる。2014年のブラジル大会に向けて、日本代表は今後、世代交代を加速させていくことだろう。残念ながらこの日のグアテマラ戦は、試合内容自体は決して面白いものでも、素晴らしいものでもなかった。むしろ地味で、得るものが少ない試合だったのかもしれない。それでも「ひとつの時代が終わった」という意味で、強く印象付けられる試合となりそうな気がする。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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