「チームの力」が日本の原動力=パラリンピック総括
トリノ大会を上回る成果
新田は2位に大差をつけて悲願の金メダルを獲得した 【ディナモスポーツ/望月公雄】
クロスカントリースキーチームには、選手8名に対して、監督、コーチほか5名のワックススタッフ、トレーナーなど14名ものスタッフが帯同する。
最終日に行われた1キロスプリントは、タイムレースの予選を行い、上位8名が準決勝に進出する。準決勝では4名が一斉にスタートし上位2名が決勝へ進む。観客が見ている前でゴールに滑り込む着順によって勝負が決まるスプリントは、クロスカントリースキー種目の中でもひときわスペクタクルなレースである。
クロスカントリー男子10キロクラシカル立位で新田佳浩が金メダルを獲得 【ディナモスポーツ/望月公雄】
一方で、選手は決勝までに計3レースを闘わなくてはいけない。体力と精神力、そして、時間とともに刻々と変化する気象条件や雪面状況に対応するスキーワックスが、大きく勝敗に影響するのだ。
新田は力強い登りでは誰にも負けない自信がある。そこに、賭けた。スタートから猛ダッシュをかけ最初の登りで2位以下を引き離すと、そのままの勢いを保ったままゴールに滑り込んだ。
「チームの作戦勝ちでした」
新田や太田が所属する日立システムアンドサービスは、所属選手だけでなくジャパンチームに対しても選手強化を全面的に支援する。射撃練習やオリンピック選手を指導するトレーナーによる筋力トレーニング、メンタルトレーニングに至るまで、プロジェクトとも言うべき体制を構築。そうして臨んだバンクーバーで、トリノ大会を上回る成果を挙げたのだった。
情報共有と技術の切磋琢磨
スーパー大回転男子座位で狩野亮が日本勢で今大会2個目となる金メダルを獲得。森井大輝も3位に入った。滑降男子座位で狩野は銅、森井は銀メダルを獲得しており、2日続けての表彰台となった 【ディナモスポーツ/望月公雄】
男子大回転の1本目を終えコースを見上げる選手たち 【ディナモスポーツ/望月公雄】
「小さなミスがあったものの、自分としては納得できる滑りでした。だけど、僕は最大のライバルであるドイツのマーティン(・ブラクセンターラー)を倒すことができなかった。それを、亮が実力でヤツをやっつけてくれた。本当に嬉しい。チームみんなで速くなってきたことが、これで証明できました」
と、後輩を讃えた。
「回転なら猛史のテクニック、滑降やスーパー大回転といった高速系種目なら亮のライン取り、そういうふうにそれぞれの得意分野をみんなで共有することで、チーム全員がオールラウンドにレベルアップしてきた」
森井を軸にしたこの結束力こそ、大幅メダル獲得数アップの要因なのである。
中北監督の首から下がった15個のメダル
堂々の銀メダルを獲得、笑顔を見せる日本代表メンバーとスタッフ 【Photo:吉村もと】
ソルトレイクシティー大会で優勝した米国のスタイルを真似ることで日本が強くなると、選手の尻をたたき続けて臨んだトリノ大会では、まさかの予選敗退。同じ目標を目指しているつもりが、選手一人一人の心のベクトルが実際にはバラバラだったのだ。大会終了後、チーム崩壊の危機までささやかれたが、再び選手が集まってきた。
「やっぱり、アイススレッジホッケーがしたい。パラリンピックでメダルを取りたい!」
IPCフラッグが、(左から)バンクーバー市長のジョージ・ロバーソン氏、ウイスラー市長のケン・メラメド氏、国際パラリンピック委員会のフィリップ・クレイバン会長と渡り、最後に次回開催のソチ市長アナトリー・パホモフ氏に渡された 【ディナモスポーツ/望月公雄】
選手はメダルセレモニーの後、ロッカールームに戻ると中北監督の首に一人ずつメダルをかけた。中北監督の首から下がった15個のメダルは、チーム力の結晶だ。輪になって叫ぶ「ニッポン、ニッポン、ニッポン!」のかけ声がこだまする。銀メダルは、金メダルに向かう新たな出発点。立場も年齢もさまざまなジャパンチームの選手たちが、それでも心を一つにして、次なる目標を目指す。
今大会、全日程の取材を通じて何度も耳にした「チームの力」。それは、バンクーバーパラリンピックにおける、日本の活躍の原動力なのである。
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