小野伸二、清水に変化をもたらしたカリスマ=“王国”の名にふさわしいチームへ
清水はFW獲得を狙っていたのだが……
約3年ぶりに国内復帰を果たした小野。故郷・清水で再スタートを切った 【Photo:日刊スポーツ/アフロ】
昨シーズン、5年目の長谷川体制で挑んだ清水は、第28節を終えた時点で首位に立った。念願のタイトル獲得へ大きく前進したかに思われた……。しかし、首位で迎えた第29節の大分戦で逆転負けを喫すると、ここからリーグ戦で5連敗を記録。最終的には7位でリーグ戦を終了することとなる。ホームで名古屋との最終戦を終えた長谷川監督は「連敗は残念だと思う。しかし、こういう苦しい経験は優勝争いをしなければ分からないこと。首位に立たなければ、この苦しさも経験できなかった」と会見で振り返った。
タイトルを獲得するためにも、新シーズンに向けての戦力補強は必須。それは誰が見ても明らかだった。そのタイミングで小野が加入した。元日本代表で、海外での経験も豊富、チームに足りなかったものを補完してくれる存在――。小野の実績は申し分ない。
しかし、小野の加入がすぐにチーム力の底上げへ結びつくかどうかに関して、実は懐疑的な意見もあった。というのも、昨オフ、清水の補強リストに名前が挙がったのは、ジュビロ磐田の前田遼一、ヴィッセル神戸の大久保嘉人といったFWの選手だった。シーズン中、高いパフォーマンスを発揮した岡崎、ヨンセンの2トップだったが、メンバーを固定して戦った弊害が終盤に出た。
岡崎は日本代表との掛け持ちで疲労がピークに達して調子を落とし、並行して相棒のヨンセンに対する相手のマークが厳しくなり大きな負担がかかった。それでも、清水は岡崎、ヨンセンに頼らざるを得ない。結果、2人のプレーは終盤に向かうにつれ下降線をたどり、チームの成績も2トップの停滞に同調し黒星を重ねた。そうした反省から、絶対的な2トップである岡崎、ヨンセンに代わる“第3のFW獲得”というのが、オフの補強ポイントだった。しかし、実際に補強されたのは層の厚い中盤、それも小野だった。
小野の加入により4−3−3へ
極端な言い方をすれば、20点取れるFWが加入したならば、昨シーズンまで積み上げてきたやり方を継続し精度を上げていくことで、優勝争いに加われるという計算が長谷川監督の頭にはあったはずだ。しかし、オフの補強はFWではない。もちろん、新加入の小野はスペシャルな存在に違いない。ただ、藤本淳吾、兵働昭弘、枝村匠馬、山本真希、本田拓也、伊東輝悦、さらに今季期限付き移籍から復帰した杉山浩太もいる。他クラブもうらやむほどの戦力が中盤にはそろっていたのだ。では、このメンバーで、どうやったら勝てるチームになるのか。指揮官はその可能性を模索した。考えた結果、導き出されたのが4−3−3というわけだ。
今シーズン、長谷川監督は「55得点・30失点」という数字を1つの目標としている。昨季は44得点・41失点なので、得点でプラス10、失点でマイナス10という計算になる。得失点差にしてプラス20あれば優勝に絡めるというのが、指揮官の答えだ。
失点に関しては、これまでのやり方も含め、守れる自信はある。では、一番の課題である得点をプラス10上積みするためには、どうしたらいいのか。昨季14得点の岡崎、9得点のヨンセンに頼るだけではなく、厚くなった中盤のタレントを生かし、どこからでもゴールを狙える形にする。そのためにシステムを4−3−3に変更したのだ。
だが、これまでとはまるで正反対に舵(かじ)を取ったこともあり、どんな結果が待っているのかは分からない。不安を抱えたままの船出となった。