小野伸二、清水に変化をもたらしたカリスマ=“王国”の名にふさわしいチームへ

飯竹友彦

「小野効果」は早くも表れている

小野(右)が入ったことで、チームの雰囲気は大きく変化した。効果は早くも表れている 【Photo:日刊スポーツ/アフロ】

 開幕から3試合を終え、清水は2勝1分けと好調な滑り出しを見せている。小野は2月のキャンプから体のキレもあり、コンディションもいい状態を保ち開幕を迎えた。第2節のモンテディオ山形戦後、小野は「個人的には満足していない」としながらも、前線の選手との絡みは「非常によくできた」と満足そうな表情を見せていた。

 まだ第3節が終了したにすぎないが、「小野効果」は確実にチームにプラス作用をもたらしたと言える。指揮官が英断した新システムの採用も、現段階ではいい方向に向いているし、何よりも最大の変化はチーム内の雰囲気だろう。というのも、小野効果の最大のメリットはチーム内でのカリスマ的存在感、振る舞いにある。

 浦和レッズ在籍時に一緒にプレーしたことのあるGK西部洋平は小野加入の効果に関して、「存在感もそうだし、若手への声掛けとか、変化はいっぱいある」と言う。キャプテンではないが、ベテランらしい振る舞いで、チームメートのモチベーションをいい形で試合に向かわせる。そうした行動が自然にできているのが小野だという。
 これまでの清水はどちらかと言えばおとなしいチームだった。そこに小野が入ったことで小さな化学反応が起きた。練習を取材していても、途中、小野が積極的に意見を言うことで、ほかの選手間のコミュニケーションが活発に行われるシーンがある。セットプレーの練習などでも、1つ1つのプレーの合間に、一言二言、指示が飛ぶ。時には監督とも何か意見を交換して、周囲に伝える。こうした光景が当たり前になってきている。

「フェイエノールトには、普段はおとなしいけど試合になるとすごい存在感を示したボスフェルトという偉大なキャプテンがいた」(小野)。その彼のそばでプレーしたことは小野にとっても大きな経験だったそうで、そのボスフェルトの役割を、今度は小野が清水で自然とやっているのだろう。実際、「伸二君が一番すごいのは、加入からわずかな時間でアッという間にチームをやる気にさせたこと」(西部)というのだから、小野が意識してチームを引っ張っているのが分かる。

わずか2カ月でチームを変えたカリスマ

 また、実際の試合、プレー面でも小野はチームに大きく貢献している。ボランチの本田は「ボールを預けておけば取られない」と絶大な信頼を寄せる。4−3−3の新システムでは、高い位置でボールを支配し相手を圧倒すること、攻撃の時間を長くすることが求められている。そのため、前線に人数を多く割かねばならず、カウンターを食らうリスクが高い。1つのミスがアッという間にピンチになってしまうのだ。
 それだけに、ボールを奪われない小野の存在は大きい。誰もが「小野に預けておけば大丈夫」という安心感があるから、慌てる必要がなくなり、ミスも減る。この好循環がチームに安定を与えているので、後ろで守っていても余裕が生まれてくる。

 攻撃面でも大きなプラス要素がある。3トップの一角で起用されている藤本は「狙っているところが同じだから、イメージが共有できるしやりやすい」と歓迎。攻撃の際に、小野、兵働、藤本がポジションを入れ替えてもスムーズな動きを見せているのも、こうした感性の共有があるからだろう。また、小野加入によって、兵働、藤本に対する相手のマークが分散したことも、チームにとって大きなプラスになっているなど、小野効果を挙げればそれこそきりがない。

 図らずも、小野は清水に大きな変化をもたらした。システムなど目に見える部分もあれば、チーム内でのメンタル的な成長など目に見えない部分もある。しかし、それはいずれ結果として表れることだろう。単純にチームの成績として出るかもしれないし、若手が海外移籍を視野に入れるような高いモチベーションでゲームに絡んできて、アッと驚くような成長を見せるかもしれない。

 小野が加わってまだわずか2カ月。この短期間で、これだけの変化が見て取れるのだから、あらためて“小野伸二”という選手のカリスマ性、存在感を覚えずにはいられない。これから半年後、シーズン終盤にはどのような変化がチームに起きているのだろうか。小野は今、試合で楽しいプレーを披露し、スタンドを沸かせている。その彼がプレーだけでなく、チームにどんな影響を与えるのか、興味は尽きない。そんな視点で清水を追いかけてみるのも面白いだろう。

<了>

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著者プロフィール

1973年生まれ。平塚市出身。出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターに。同時に牛木素吉郎氏の下でサッカーライターとしての勉強を始め、地元平塚でオラが街のクラブチームの取材を始める。以後、神奈川県サッカー協会の広報誌制作にかかわったのをきっかけに取材の幅を広げ、カテゴリーを超えた取材を行っている。「EL GOLAZO」で、湘南ベルマーレと清水エスパルスの担当ライターとして活動した。現在はフリーランスの仕事のほか、2014年10月より、FMしみずマリンパルで毎週日曜日の18時から「Go Go S-PULSE」という清水エスパルスの応援番組のパーソナリティーを務めている。2時間まるごとエスパルスの話題でお伝えしている番組はツイキャス(http://twitcasting.tv/gogospulse763)もやっています。

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