12年目を迎えるJ2の魅力=第二の水戸の出現、ベテランの活躍は?

佐藤拓也

今季のJ2の勢力図は3つのグループに分けられる

43歳、Jリーグ最年長キャプテンとしてチームを引っ張るキング・カズ。彼の活躍はサポーターだけでなく、日本中に元気を与えるはずだ 【佐藤拓也】

 バンクーバー五輪の興奮が冷めやらぬ中、今週末にいよいよJリーグが開幕を迎えようとしている。今年はワールドカップ(W杯)イヤーということに加え、中村俊輔や稲本潤一といったスター選手がJリーグ復帰を果たすなど、昨季以上の熱気を帯びつつある。
 だが、JリーグとはJ1とJ2で構成されていることを忘れてはいけない。J2を知らずしてJリーグを語ることなかれ。おそらくこれから多くの人の目はJ1へ向かうことだろう。だが、そのついでといってはなんだが、ぜひともJ2にも目を向けてほしい。昇格へ向けてのデッドヒート、新たなる才能の原石の登場、そして規模は小さいながらも地域に密着して成長しようとする姿など、J1とはまた違った面白さがそこかしこに転がっているのだ。J2の楽しみ方を知れば、サッカーはもっと面白くなる。
 昨季のJ2は最終節で2点差をひっくり返して勝ち点1差で追いすがるヴァンフォーレ甲府を退け、湘南ベルマーレが昇格を果たすという劇的な展開で幕を閉じた。そして今季も、それに勝るとも劣らない激闘が繰り広げられるはずだ。

 今季は降格組の柏レイソルとジェフ千葉の戦力が頭一つ抜け出しており、昇格の最有力候補である。その2チームを他チームが追う展開となるだろう。1月17日に行われた新体制記者会見の場で甲府の佐久間悟ゼネラルマネジャー(GM)が語った展望が大方の予想だ。
「今年のJ2リーグは大きく分けて3つのグループに分かれると予想しています。Aグループは柏と千葉、外国人選手(フェルナンジーニョ※その後、ベガルタ仙台へ移籍)が残れば大分トリニータも入ると思っています。Bグループはコンサドーレ札幌、横浜FC、徳島ヴォルティス、カターレ富山、アビスパ福岡、サガン鳥栖と甲府。そして、Cグループはそれ以外になるのではないでしょうか」

 大型補強を行った横浜FCと徳島、そして石崎信弘監督の下で2年目を迎える札幌、昨季からの土台の上に効果的な補強を行った富山、昨季終盤でチームの成熟度が増した福岡、主力選手が横浜FCへ移籍した穴を補強で埋めた鳥栖、そしてハーフナー・マイクとパウリーニョという強力なストライカーが加入した甲府。それらのチームが降格組とJ1昇格の3枠を争う形勢となりそうだ。ただ、一昨年のモンテディオ山形の昇格、昨年の水戸ホーリーホックの快進撃など予想外の出来事が起きるのもJ2の醍醐味。決して大きな戦力差があるわけではないだけに、何が起きるか分からない面白さがJ2にはある。

飛躍の鍵となるのはクラブとしての成熟度

昨季、躍進を見せた水戸。J2での11年目のシーズンを迎える今季は、荒田や高崎が抜けたものの、有望な大卒選手を多く加え、昨季以上の成績を目指している 【佐藤拓也】

 開幕に向け、これまでにJ2の10チームほどを取材したが、「水戸の昨年の躍進は刺激になった」と口にする関係者が多かった。約8000万円というリーグで最低水準の強化費ながらも第38節終了時点で昇格圏内の3位に勝ち点差5に迫るなど活躍を見せた水戸の姿が、多くのチームに「ウチも上位にいける」という勇気を与えたという。特に小規模で運営している地方のチームにとっては大きな希望となったようだ。

 果たして水戸とそれらのチームを分けたものは何か。昨季の順位表を見てみると、J2加入5年以内で1ケタ順位に入ったのは9位の徳島のみ。それ以外は10位以下に沈んでいる。それに対し、水戸は昨季J2加入10年目。年季の差が1つの要因と考えられる。
 というのも、新加入チームの多くは母体となる企業を持たず、小規模な運営を余儀なくされている。その結果、練習場やクラブハウスがないなど戦力だけでなく、環境面でも上位チームと大きな差がついてしまっているのが現実だ。一方、水戸は運営費こそ少ないままだが、クラブ発足時から着実に前進し、専用の練習場や選手寮を持つようになり、そして昨季には新スタジアムが完成するなど徐々に環境を整えてきた。下位に沈んだチームは練習場を確保するところから始めなければならないところが多く、その差が結果となって表れたと言えるだろう。

 愛媛のキャンプの取材に行った時、地元の記者が「やっとプロらしくなってきた」と言っていたのが印象的だった。今季から愛媛はフィジカルコーチを招へいした。ウォーミングアップなどはフィジカルコーチが指導しているのだが、J2に加入した4年前にはGKコーチすらおらず、「Jリーグとは名ばかりでアマチュアチームに毛が生えた感じだった」とその記者は回想していた。年々、一歩一歩体制を整えながらやっとフィジカルコーチまで手が回るようになったというわけだ。

 J2の面白さと言えば、当然昇格争いだが、全クラブが昇格を使命として背負っているわけではない。それだけに昇格争いだけでなく、クラブの成長度を見ることがJ2にとっては重要なことと言えるだろう。クラブの現状をしっかり見据えながら、いかに早く頑丈な足場を築くことができるか。それができたチームが飛躍への権利を得ることとなる。昨季、水戸がそのきざしを見せたが、次に続くのはどのチームか。今季JFLから昇格してきたギラヴァンツ北九州も含め、年季の浅いクラブがどれだけ早く成長し、基盤を整えることができるか。それこそが“第二の水戸”になる鍵となるのだ。

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著者プロフィール

1977年7月30日生まれ。横浜市出身。青山学院大学卒業後、一般企業に就職するも、1年で退社。ライターを目指すために日本ジャーナリスト専門学校に入学。卒業後に横浜FCのオフィシャルライターとして活動を始め、2004年秋にサッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターとなる。現在は『EL GOLAZO』『J’s GOAL』で水戸ホーリーホックの担当ライターとして活動。2012年から有料webサイト『デイリーホーリーホック』のメインライターを務める。

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