“ポルトガルのアーセナル”の大躍進=スポルティング・ブラガ、首位快走の理由

鰐部哲也

3強を押しのけ、首位につけるスポルティング・ブラガ

昨季はUEFAカップにも出場したブラガ。そのチームをドミンゴス監督がさらに発展させた 【Bongarts/Getty Images】

「Arsenalistas(アルセナリスタス)」、英語で言うと「Arsenals(アーセナルズ)」という愛称で呼ばれるクラブがポルトガルにある。1920年に時の監督だったヨゼフ・サボーがイングランドのハイバリー(以前のアーセナルのホームスタジアム)を視察に訪れたときにその施設と雰囲気に感銘を受け、それまで緑と白のストライプだったユニホームを深いえんじ色を基調にした“アーセナルカラー”に変えたことに由来する。
 そのクラブの名は、スポルティング・ブラガ。スペインと国境を接するポルトガル最北のミーニョ地方にあり、以前、廣山望(現ザスパ草津)がポルトガルリーグ初の日本人選手としてプレーしていたクラブと言えば、多少日本のサッカーファンにもなじみがあるかもしれない。
 現在、そのブラガがリーガを席巻している。本家イングランドのアーセナルのお株を奪うようなパフォーマンスで、今シーズンのリーガ・サグレス(ポルトガル国内リーグ)で開幕7連勝。首位を走り、台風の目どころか優勝候補に推されているのだ。

「トレス・グランデス」と呼ばれる、ポルト、スポルティング、ベンフィカの3大クラブが毎年のように“カンピアオン・エスクード”(リーグ優勝チームが翌シーズンのユニホームに着けることが許される盾の形をしたエンブレムのこと)を争っているポルトガルにおいて、3強以外のクラブが首位に躍り出ているのは「秋の珍事」と言えなくもないが、ブラガはここ数年着実に地力を付け、「3強に次ぐ位置=4位」を不動のものにしてきた。
 過去、ブラガが1部リーグに在籍した53シーズンにおいて、8回と一番多いのがクラブ最高位の4位である。直近の5シーズンでは実に3度、4位に入っている。2003年に当時、31歳という異例の若さで会長に就任したアントニオ・サルバドールがまいた種はしっかり芽を出し、ようやく“優勝”という実を収穫するところまできたのである。

昨季のチームをさらに発展させた新監督のドミンゴス

 今季、第2節ではアウエーでスポルティングを2−1で撃破し、第5節では現在リーガ4連覇中の王者ポルトを屠(ほふ)り、ジャイアントキリングを繰り返しているブラガの強さの秘密はどこにあるのだろうか?
 ポルトガルのスポーツ紙で唯一、ブラガの本拠地に近いポルトに本社を置き、北部のクラブ事情に詳しい「O JOGO(ウ・ジョーゴ)」紙のビトール・ロドリゲス記者に現地で話を聞いた。
 まず、「今シーズンのブラガが強さを保っているのはなぜか? 何が変わったのだろうか?」という質問をぶつけてみると、このように分析してくれた。

「ブラガは昨シーズンの良かったときのチームのクオリティーを維持しているね。昨シーズンの監督、ジョルジュ・ジェズス(現ベンフィカ監督)が築いた守備に重点を置いた4−4−2のシステムと戦術を踏襲していることに変わりはない。今ではすっかりポルトガル代表の守護神として定着したエドゥアルドを中心にリーガ最少失点(3点)でここまできているのが大きいと思う。
 変わった点といえば、監督がドミンゴス・パシエンシアになってからよりダイナミックな攻撃をするようになったね。前線の選手の仕掛けが早いし、FWのアラン(現在アタッキング回数リーガ1位※)を中心により積極的にゴールに向かう姿勢が見て取れる。守備が安定していて、攻撃力が増したんだから今のブラガは非常にバランスの取れた強いチームということになる」

 今季のブラガは昨季までの監督だった戦術家のジェズスをベンフィカに奪われ、40歳の青年監督、ドミンゴスを新監督に迎え入れた。ドミンゴスと言えば、かつてポルトのエースとして106ゴールを挙げ、甘いマスクで絶大な人気を誇ったストライカーである。さらにポルトガル代表でもスーパーサブとして活躍し、ユーロ(欧州選手権)96・イングランド大会のクロアチア戦では後半からピッチに入って決勝トーナメント進出を決定づける3点目を決めたことが印象に残っている。
 そのドミンゴス監督についてロドリゲス氏は、「今シーズン、ドミンゴスが監督になってブラガの雰囲気は良くなったね。昨季までのジェズスは規律を重んじる監督だったから常に選手に対して上から目線で物を言うようなところがあってピリピリしたところがあったけど、ドミンゴスは選手と年齢も近いし、友達のような関係でうまくコミュニケーションを図っているから選手もよりリラックスしてプレーができていると思う。さらに選手としてポルトとセレソン(ポルトガル代表)での経験が豊富だから練習中に自ら手本を示すことができるし、うまくその経験を還元できているのもブラガにとっては良い影響を与えているんじゃないかな」と指摘する。

 ドミンゴス監督は、同じ1969年生まれで代表で一緒にプレーしたこともある将来有望な青年監督パウロ・ベント(スポルティング監督)と比較されがちだが、ロドリゲス氏は「パウロ・ベントは確かに次代を担うポルトガルの若手有望監督だ。ドミンゴスよりジュニアチームでの優勝や、ポルトガルカップでの優勝など実績もある。ただ、頭が固いところがあって戦術はいつも一緒だし、選手の起用方法も代わり映えがしない。ドミンゴスはフレキシブルにシステムや持ち駒(選手)によって戦術を変えることができるし、コーチングも適格だ。今まで弱小クラブを率いてきたから状況判断に長けている。今季のブラガではそのさい配にさらに磨きがかかっているように思う」と両者の違いを挙げた。 

※アタッキング回数:アタッキングエリアでの、パス、クロス、シュートを含めた攻撃回数。どれだけ攻撃参加をしているかを計る指数となっている。今季のポルトガル国内リーグでは、第7節終了時点でブラガのアランが82回で1位、2位は63回のフッキ(ポルト)

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著者プロフィール

1972年10月30日生まれ、三重県出身。2004年から約4年間ポルトガルのリスボンに在住し、日本人初のポルトガルスポーツジャーナリスト協会会員としてポルトガルサッカーを日本に発信。昨年8月に日本帰国後は、故郷の四日市市でブラジル人相手のポルトガル語の通訳、翻訳、生活相談員の仕事に従事しながら、サッカーライターへの復帰を模索する毎日である。

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