ドイツ、ユース世代最強を誇る強さの秘密=U−17W杯・ナイジェリア2009

中野吉之伴

ドイツの伝統を生かしたサッカー哲学

近年のドイツはユース世代の躍進が目覚しく、若手の台頭がA代表の底上げにつながっている 【Bongarts/Getty Images】

 選手育成のベースとなっているのは、ドイツ伝統のメンタリティーを生かしたサッカー哲学だ。
 わたしが先日まで研修していたブンデスリーガ・フライブルクのCユース(U−15)のパトリック・ツィンマラー監督も「このCユース年代で最も大事なのは、戦いに挑むという気持ちを植え付けること。1対1における姿勢、競り合いにおける積極性、試合に向けての勝ちたいという意欲。今後、サッカー人生を歩んでいく上で基盤となるものを築き上げていくことが大切だ」と語っている。

 この言葉通り、フライブルクをはじめとしたブンデスリーガの各クラブでは、ジュニアユースの練習から激しいボールの奪い合いが繰り広げられている。もちろん、ハードに戦い抜けるフィジカル、どんなときでも正確にボールを扱う技術、状況に応じた判断、戦術なども、コーチは高いレベルで選手に要求する。

 具体的なトレーニングメニューとしては、やはりというか、2つのゴールを置き、比較的狭いスペースでのゲーム形式の練習が多い。
「練習では全員の守備意識が必要不可欠。そして一瞬の気の緩みも許さない激しく積極的な守備に対してボールをキープし、正確なパスを繰り出す。そこを突破していくことで、選手のレベルは上がっていく」(ツィンマラー監督)

欧州王者として挑むU−17W杯

 今回のU−17ドイツ代表に名を連ねる選手たちも、このような厳しく激しい環境でもまれ、育ってきている。それだけに、A代表と同じ4−4−2の布陣を敷くチームは、本大会での上位進出も夢ではない。
 注目選手にはまず、キャプテンのラインホルト・ヤボ(ケルン)が挙げられる。カバーリング能力とフィジカルの高いボランチで、ドイツ代表としては初めての黒人キャプテンだ。右サイドバックのボンビュー・バサラ・マツァナ(ケルン)は1対1に抜群の強さを誇り、攻守にアクセントをつける存在。オフェンシブハーフに入ることの多いクリストファー・ブフトマン(リバプール)はタイミングのいいドリブル突破からチャンスメークを担う。欧州選手権のオランダ戦で決勝ゴールを決めたフロリアン・トリンクス(ブレーメン)は強烈なミドルシュートを武器としている。長身を生かしたヘディングとペナルティーエリア内でのポジショニングが巧みなストライカー、レンナルト・テイ(ブレーメン)は2008−09シーズンにBユース(U−17)で24試合26ゴールをたたき出した点取り屋だ。

 監督のマルコ・ペッツァイオリは大会に臨むにあたって、こう話している。
「難しいグループに入ったが、われわれは欧州チャンピオンとしての自信を胸に、決勝トーナメントに勝ち残っていきたい。選手たちは5月の欧州選手権からさらに成長している。順調に成長していけば5、6年後にワールドスタンダードのレベルに到達することができるだろう。その意味でも、今大会はトップレベルの国と比較できる貴重な経験の場である」

 チームとしては、組織立った積極的なプレスでボールを奪い、グラウンダーの早いパス回しから素早くトップのテイにボールを当て、それに呼応して両サイドの攻撃的MFが裏のスペースに飛び出していくのがスタイルだ。
「優勝候補はブラジル。あそこの個人技はやはりすごい」(ペッツァイオリ監督)と、あくまで挑戦者の姿勢で大会に臨むが、初戦の開催国ナイジェリアとの一戦をうまく乗り切れば、とんとんと勝ち進んでいく可能性は十分にある。
 何より、今のドイツサッカーは正直、面白い。U−17W杯では日本代表のみならず、ドイツ代表にも注目してみてはどうだろう。

<了>

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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