ナダル復活、その裏に隠されたもう一つのドラマ=全米テニス

秋山英宏/WOWOW
 愛するテニス、そして人生を懸けた職業でもあるテニスを、いきなり取り上げられてしまう。しかも、コカイン摂取という、身に覚えのない汚名を着せられて。22歳(当時)のリシャール・ガスケ(フランス)は目の前が真っ暗になっただろう。

身に覚えのない汚名、そして復帰へ

身に覚えのない汚名を着せられたガスケだが、全米でグランドスラム復帰を果たした 【Getty Images】

 2009年3月、米国マイアミの大会で行ったドーピング検査で、コカインの陽性反応が出た。国際テニス連盟(ITF)はただちに2年間の出場停止処分を下した。本人は摂取を否定したが、地元フランスで行われた全仏オープンも、ウィンブルドンも出場はかなわなかった。個性派で天才肌のガスケがツアーから消えるのは、われわれにも残念だった。07年にはジャパン・オープンで決勝に進出し、日本のファンは、その変幻自在のテニスにすっかり魅了された。選手としてこれからという時期に見せたつまずきに、胸を痛めたファンもたくさんいただろう。

 同世代のラファエル・ナダル(スペイン)は、全仏オープンでの記者会見で「彼はコカインなんて絶対使っていないよ。親しい友人だし、全面的にサポートする」とガスケを擁護した。その後、ITFの独立裁定委員会は、故意の摂取ではなかったとの本人の主張を認め、出場停止を2カ月半に短縮した。報道などによると、パーティーで知り合った女性がコカインを使用していて、キスを通じて微量のコカインが体内に入ったということらしい。ガスケも、ファンもひとまず胸をなで下ろしたことだろう。

ナダルvs.ガスケ、盟友の対決は一方的な展開に

故障明けを感じさせない快勝劇で2回戦へ駒を進めたナダル 【Getty Images】

 復帰戦は全米オープン前哨戦の米国ニューヘブン大会だった。予選から出場したガスケは、予選2回戦でランキング459位の選手に敗れてしまう。3カ月のブランクの影響は大きかった。また、汚名を着せられた心の傷もよほど深かったのだろう。
 全豪オープン以来3大会ぶりのグランドスラムとなった今回の全米オープン。1回戦の相手が、擁護してくれたナダルというのも不思議な巡り合わせだった。そのナダルも、ひざの故障が回復し、ほんの数週間前にツアー復帰を果たしたばかりだった。

 カムバックに懸ける両者の試合は、一方的な展開となった。ラリーを長引かせたくないガスケは早めの展開を狙うが、ナダルは容易に崩れない。それ以前に自分のプレーがガタガタだった。以前は魔法の杖のようだった彼のラケットも、この日ばかりは粗いショットを打ち出すだけだった。6−2、6−2、6−3、試合時間わずか1時間41分。ガスケはブレークポイントを握ることさえできなかった。楽しみな対戦はワンサイドゲームに終わった。

「3カ月プレーできず、練習さえあまりできなかったんだ。元の状態に戻るのは大変だよ。でも、復帰できてハッピーだ。復活できるのはいつになるか分からないけど、必ずできると信じている」

 不運に見舞われたガスケに、テニスの神様はまた微笑むだろうか。その日が早く来ることを願うばかりだ。

<男子シングルス1回戦>
ラファエル・ナダル(スペイン) 3−0 リシャール・ガスケ(フランス)
(6−2、6−2、6−3)

<了>

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