ヒディンク監督「育成の鍵は“模索させる”」=名将に学ぶユース世代の指導哲学

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ナイキのイベントでユース世代の指導者の前で講演を行ったヒディンク氏 【スポーツナビ】

 鋭い戦術眼と卓越した手腕を誇るオランダの名将、フース・ヒディンク監督。大胆な采配(さいはい)で数々の実績を残してきたことから、“マジシャン”との異名を持つ。どちらかと言えば勝負師としての印象が強いが、選手のポテンシャルを引き出すすべを熟知しているだけに、意外にもユース世代の育成についても造詣が深い。
 そのヒディンク監督がこのほど来日し、「ナイキ・コーチング・フォーラム」に登壇。選手育成の極意から日本サッカーのウイークポイントまで、ユース指導者に向け、自身のフットボール哲学を披露した。

ボールコントロールは6〜13歳までに

――まず、日本サッカーにはどんな印象を持っているか?

 ここ数年のことは詳しくないが、韓国代表の監督を務めていたころ(2001〜02年)は日本サッカーもよく分析していた。当時の印象では、テクニカルでスキルのある選手が多く、日本は非常に有望であると言われていた。わたしはむしろ皆さんに聞きたい。2002年ワールドカップ(W杯)日韓大会を経験して、それを育成にどのように反映させてきたのか。

 というのも、わたしは06年のW杯ドイツ大会でオーストラリア代表を率い、日本代表と対戦した。そこでチームを分析すると、スキルはあるし、攻撃もうまい。しかしながら、チームの戦術がオープンすぎてMFとDFの間にスペースがあるとも感じた。そして何より試合終盤に疲れてしまう。日本は後半になると強みが失われる。これは明らかであると。日本がW杯直前に行ったドイツ代表との親善試合もそう。日本は60分、完ぺきなパフォーマンスを見せた。これには非常に驚いた。しかし、最後の30分、フィジカルの強み、組織としての強みを失い、ドイツに追いつかれてしまった。オーストラリアとの試合でも日本は最初非常に力強いプレーをしていた。だが、後半に入るとオーストラリアが復活し立場は逆転した。もっとも、この話は今回のテーマではないと思うが。

――では、育成年代の指導におけるフィロソフィー(哲学)を教えてほしい

 わたしの理念としては、若者に対してはなるべくボールを触れさせることがある。エクササイズは常にボールとかかわること。ユース世代の育成で重要なのは練習の中で9割はボールとかかわっていることだ。テクニカルなスキルの習得は14〜18歳では遅い。その年齢では完ぺきに近くないといけない。6〜13歳までに毎日のようにボールコントロールを教えることが重要だ。これは科学でも証明されており、筋肉組織、神経はその年齢であればまだ形作ることができる。だからこそ、わたしは強調している。優れた素質は必要だが、その素質を生かすには500回、1000回とより多くボールに触れる必要があると。

答えを教えず選手に考えさせる

――プレーの発想やアイデアはどうやって身につければいいのか?

 クリエーティビティー(創造性)を磨くことはユース世代の育成では非常に重要だ。そのためには、コーチはエクササイズの段階からフットボールの問題、選手がいろいろとチャレンジできる状況を提供していくべきである。コーチは答えをすべて教える必要はない。複雑な問題をどうやって解決していくかを選手に考えさせるようにすること。フットボールでは毎回状況が違う。そこで選手自身が問題を解決すべく考え、試行錯誤することによって、クリエーティビティーは身についていく。コーチはヒントを提示することはできるが、このプロセスにあまり介入してはならない。

 練習メニューは11対11でもいいし、ミニゲームでもいい。7対7や7対6、4対4、3対3、2対2、さらには2対2+アシスタントというトレーニングもある。大切なのは選手がチャレンジできる、クリエーティビティーやイニシアチブ(主体性)の発揮が求められる練習かどうか。フットボールで重要なのは1対1で勝つこと。この点も強調しておきたい。

 方法としてはまず10〜15分、選手だけにやらせてみて問題に直面させる。その後にプレーをチェックすればいい。例えばビデオで練習を撮影して、後で自分たちのパフォーマンスをチェックするのもいいだろう。ここで気をつけたいのが、コーチが持っているソリューション(解決方法)を与えるのではなく、「こういう状況でのプレーは正しかったのか?」「この決定でよかったのか、それともほかにオプションはあったのか?」と尋ねることだ。そうすれば選手は自然と考えるようになる。コーチはプレーを押し付ける傾向があるが、それは忘れた方がいい。若い選手たちには自分がやったことを見せて、ほかにどんなオプションがあったのかを考えさせる。そうすることで自分のアプローチを考え直すきっかけになる。ユース世代の育成で素晴らしい監督というのは選手に模索させる。それが育成の鍵だと思う。

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