ヒディンク監督「育成の鍵は“模索させる”」=名将に学ぶユース世代の指導哲学

スポーツナビ

クリエーティブな選手はロマーリオ、ミヤトビッチ、ベルカンプ

ヒディンク氏は韓国代表監督時代のパクとの思い出を振り返った 【スポーツナビ】

――これまでの指導経験の中で、発想が抜群に豊かだった選手は?

 発想豊かで直感的なプレーヤーの典型はロマーリオだろう。PSVでの教え子だが、非常にクリエーティブでわたしは彼についてあまり心配しなかった。ほかにはレアル・マドリー時代のミヤトビッチもクリエーティブな選手だった。それからオランダ代表ではベルカンプがその筆頭だろう。スキルが豊富で見ていて非常に楽しい選手だ。アジアでも02年前後の韓国、日本にはクリエーティブな選手がいたと思う。

 クリエーティブな選手というのは自分のやり方を持っていて、ある意味、頑固な選手でもある。彼らには時に自由を与えることも必要だ。もちろん通常の規則には従ってもらわなければならないし、特権を許すことはない。でもクリエーティブな選手には少し行動の自由を与えた方がいい。多くのコーチがそうであるように、わたしもかつては過ちを犯したが、よかれと思って選手に押し付けてはならない。才能をそのまま伸ばす、生かしてやることが大切だ。

――イニシアチブ、クリエーティブ、ディシプリン(規律)のバランスは難しいと思うが

 韓国代表を指揮した当初、1つ問題だったのは、選手の練習を見ていてイニシアチブが欠けているように思ったことだ。スキルはあるのに、なぜイニシアチブが欠けていたのか。これは文化的なことかもしれないし、あるいはほかの理由かもしれないが、選手はミスを恐れていた。聞いたところによると、ミスを犯すと罰則を受けるという恐怖感が無意識のうちに働いていたようだ。こうなると選手はイニシアチブを取らないようになってしまう。失敗すれば罰を受けると思うからだ。こうした否定的な考えがパフォーマンスに悪影響を及ぼしていた。それを変えようと思った。時にはわたしがミスを称賛しているかのように映ったようで、周囲からの批判もあった。だが、わたしとしてはコミットメント(責任)が完ぺきであれば、ミスを犯すこともあるということを示したかったのだ。

 とはいえ、この問題が改善するのにそれほど長くはかからなかった。ミスをしても罰を受けないと分かって選手は安心したのだろう。自分の能力通りにやっていいんだと。こうして監督と選手の間に信頼関係が生まれれば恐いものはない。監督がもっと要求すれば、選手はそれに応えようと努力する。

パク・チソンを誇りに思う

――監督として一番大事にしていることは?

 まずは要求を高くすること。もう1つは自分のチームを分析すること。分析は時間がかかるが、とても重要だ。個々のポテンシャルを分析すれば、どんな選手でもパフォーマンスは10〜15%以上アップする。選手は試合よりも練習の方が実力を発揮できるケースがあるように、一般的に10〜15%は改善の余地がある。監督はその問題点を見つけ出さなければならない。それは時に戦略、戦術的であり、例えば選手のポジションを変えることで解決することもある。どんな選手にも長所、短所はあるが、監督としては、ある選手の弱みを、別の選手の強みで埋め合わせないといけない。そのためにもチームをよく分析する必要がある。

――パク・チソン(マンチェスター・ユナイテッド)の成長をどうやって助けたのか?

 初めて会ったとき、彼はシャイだった。パフォーマンスは悪くないけど恥ずかしがり屋なのではないかと思った。その後、韓国代表では分析、対話などを重ね、彼の力を徐々に引き出すことができた。そしてW杯の後、彼をPSVに連れて行ったが、最初の3カ月はつらかったと思う。サポーターからのブーイングもあったし、厳しいサッカー文化に直面していた。すると、すっかり昔の彼に戻ってしまった。自信をなくし、パフォーマンスも低下していた。

 そのとき、わたしは彼にこう言ったんだ。「チャンピオンズリーグ(CL)のレベルで成功したいんだろう。3、4週間の休暇を取ってひざのけがを治してこい。チームに戻ったらまた戦い始めろ。そして自分の力を出しきれ」と。さらに、「W杯のときのようにやればCLでもできる。お前ならできる」とも話した。その後、彼は成長してPSVでも愛される選手になり、そして現在は世界有数のビッグクラブでプレーするまでになった。わたしは彼にきっかけを与えただけ。それを生かすも殺すも彼次第だったが、彼には強い意志があった。そうでなければ欧州で成功はできなかったはずだ。彼は良いプレーをするだけでなく、責任感がある。あとはちょっとプッシュしてやればいい。わたしはパクのことを非常に誇りに思っている。

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