フェデラーが決勝進出。史上最多4大大会優勝まであと一つ=ウィンブルドン選手権第11日

秋山英宏/WOWOW

地元の英雄を倒し、決勝進出を決めたロディック

 アンディ・ロディック(米国)が頭を抱えて座り込んだ。これが彼なりの最高の歓喜の表し方なのだ。ウィンブルドンでは05年以来4年ぶりの決勝進出を決め、アンディ・マレー(英国)を応援するイギリス国民の期待を打ち砕いた瞬間だった。

「彼の地位、彼の度量、そして彼を取り巻く雰囲気を考えれば、彼を倒すには最高のテニスをすることが必要だった」と胸を張るロディック。マレーが「彼のサーブはすごかった。ライン際に、すごい勢いのボールが、しかも高い確率で入ってきた」と舌を巻いたように、終始、ハイクオリティのテニスを貫いた。ロディックの4大大会決勝進出は06年の全米以来。その決勝には、03年の全米以来遠ざかっている2つ目のグランドスラムタイトルが懸かる。

 敗れたマレーは「出来は良かったんだ。ウイナーの数も多かったし、ミスも少なかった。二人の獲得したポイントも同じくらいのはずだ(獲得ポイントはロディックが143、マレーが141)。決してひどい試合をしたとは思っていないよ」と話しながらも、落胆の色を隠せなかった。

大記録の懸かる決勝へ駒を進めたフェデラー

ウィンブルドン選手権第11日、男子シングルスで決勝進出を決めたフェデラー。大記録まであと1勝に迫った 【Getty Images】

 もう一つの準決勝では、ロジャー・フェデラー(スイス)が、対戦成績で9勝2敗と大きくリードしているトミー・ハース(ドイツ)をストレートで片づけた。スコアは接戦だったが、フェデラーはハースとのラリーを楽しんでいるようにも見えた。「簡単な試合ではなかったけれど、相手が好調だとこちらも良いプレーができるものなんだよ」と余裕の表情のフェデラー。

 フェデラーにしてみれば、マレーの敗退によって、決勝で戦う“敵”がいくつか減ったことになる。マレーにはこれまで2勝6敗、現在4連敗中と、もっとも苦手な相手だったと言っていい。逆に、対戦成績18勝2敗のロディックは“お得意さん”だ。

 また、相手がマレーであれば、73年ぶりの地元選手の優勝を期待するイギリス国民を敵に回さなくてはならなかった。「僕は全米オープンでロディックやアンドレ・アガシ(米国)とやったり、あらゆる国でタフな試合をしてきた」と語っていたフェデラーだが、マレーを相手に、完全アウエーのセンターコートでプレーするより、よほど気が楽だろう。

 相手がマレーでなくロディックなら、ファンは逆に、大記録のかかるフェデラーの側につくだろう。生涯グランドスラム達成の懸かっていた全仏で、多くのファンが彼の背中を押したように。

フェデラーは「記録の重圧」を乗り越えられるか!?

 となると、残る敵は、その記録の重圧か。この決勝には、史上最多となる通算15個目のグランドスラムタイトル、そして世界ランキング1位返り咲きが懸かる。この決勝は、フェデラーのテニス人生でも大きな節目となるはずだ。しかし、フェデラーにはこれも高いハードルではないようだ。記録について彼はこう語っている。

「僕は、みんなが記録を話題にするのはうれしいんだ。なぜなら、良いプレーをするための励みになるからね。僕は記録に挑戦するのは好きだよ。でも僕は、何より自分のために戦うのが好きなんだ。それが自分にとって最も励みになるんだ。僕はテニスのそういうところを楽しんでいるんだよ」。確かに、過去のフェデラーを見れば、記録の重圧に苦しむ姿は想像しにくい。

 ロディックが準決勝の好調を維持すれば危険な相手であることは疑いない。しかし、つい数週間前の全仏と同じように、あらゆる状況がフェデラーを後押ししているように見えて仕方がない。

<了>
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