名波浩「それでも僕は左足にこだわる」=日本を代表するレフティーの感性に迫る

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日本サッカー界を代表するレフティーとして活躍した名波浩氏 【スポーツナビ】

 名波浩――日本に「レフティー」という言葉を定着させた元日本代表の10番が、昨年末にスパイクを置いた。ジュビロ磐田、日本代表などでプレーした14年間、“魔法”と形容された彼のパスは、いつも左足から繰り出されていた。
「僕の脳が『右足でこうやれ』と言う前に、左足が出ちゃうんです」
 右足の練習をしたことは、あるにはある。だが、試合中はいつも左足だった。
 近年では右足を使える左利き選手が増えてきたが、彼は最後まで左にこだわった。“左しか使わない左利き選手”の数少ない生き残りだといえるだろう。その名波氏に、左足へのこだわり、独特と言われる左利き選手の感覚、そして左利き選手をとりまく戦術的変化を解説してもらった。

レドンドのプレーには優雅さがある

――ひと言で左利きと言ってもいろいろな選手がいます。名波さんの中で、左利きの選手を分類すると、どうなりますか?

 大きく分けたら、テクニシャン系とパワー系ですね。日本選手なら(中村)俊輔(セルティック/スコットランド)、藤本(淳吾/清水エスパルス)、柏木(陽介/サンフレッチェ広島)、本田(圭佑/VVV)もそうです。本田はパワーもありますが、テクニシャン系ですね。
 僕が考えるパワー系は少し固いイメージがあって、例えば服部(年宏/東京ヴェルディ)、平野(孝/バンクーバー・ホワイトキャップス)、両利きかもしれませんが都並(敏史)さんもですね。海外でいえばロベルト・カルロスが典型。フリーランニングが多い選手はパワー系で、トップ下にパワーを全面に出す選手はほとんどいないですよね。

――多くの左利きの選手がいる中で、名波さんが現役時代に目標にしていた選手はいますか?

 よく聞かれるのですが、あまりいなかったですね。それは自分が一番すごいとか、そういうのではなくて、“あこがれ”みたいな選手がいなかっただけです。もちろんマラドーナはすごかった。今だったらメッシもそう。ただ、僕とタイプが違いますから、彼らの良さを求めようとは全く思わなかったです。
 俊輔や、藤本、柏木らは、対戦していて「この選手うまいな」とか「左利き独特の持ち方をするな」とか、そういうところに目は行っていましたけど。

――海外の選手はどうですか。1996年のキリンカップで対戦したユーゴスラビアにはサビチェビッチがいました。柏レイソルでプレーしたストイチコフも左利きですよね

 何か違いますね。僕の圏外というか。ただ、レドンド(元アルゼンチン代表)に関しては自分が影響を受けそうだなと感じました。彼のレアル・マドリーでのプレーを見ていましたし、トヨタカップで来日したときも練習を見に行きました。
 まず、彼には優雅さがある。それと、人と人の間にボール1個分を通す配給のセンスだったり、「どこにパスを出すのか」というドキドキ感がありますね。
 レアル・マドリーのグティも悪くないですね。ただ、いろいろなポジションをやらされて、かわいそうな気もします。僕は一般にいう“パサー”が好きなんです。

――そのパサーがパスを出すとき、よく“俯瞰(ふかん)の絵”が見えていると聞きますが、実際にはどういう絵が見ているのでしょう?

 例えば、6日のウズベキスタン戦(1−0で日本が勝利)で、俊輔がノールックで背後に浮き球のパスを出した場面がありました。結局は相手にボールが渡ってしまいましたが、それは彼が上空から見たイメージを実行に移した結果でしょう。
 中山(雅史/ジュビロ磐田)さんが僕からのパスで一番良かったというのが、2002年のホームでやった広島戦でのアシストでした。相手選手が来たところを体でワンフェイクを入れて、左足アウトで浮き球のパスを出して、中山さんが胸トラップでGKの股抜きシュート。そのとき僕はパスを出す前から上からの絵が見えていて、ボールを蹴るか蹴らないかの瞬間に、ディフェンスラインの裏に出せばいいんだと分かって出したんです。そこが“光る”と言えばかっこうよく聞こえますが、そのようなスポットが見えたんです。空間でとらえるので、俯瞰する場合は必然的に浮き球のパスが多いですね。
 とはいえ、ボールをもらって前を見たときにパスコースが3つあったとしても、上から見た絵は1つのときもあれば、ゼロのときもあります。2〜3つは見えない。それほど見えている日本人選手はいないんじゃないでしょうか。

メッシが右サイドでプレーする理由

バルセロナでは右サイドでプレーする左利きのメッシ(右) 【Photo:アフロ】

――メッシは左利きですが、バルセロナでは3トップの右サイドを任されています。その狙い、メリットを解説していただけますか

 昔は、サイドの深いスペースまで持っていって、そこからクロスを上げることが普通でした。そうなるとさすがに左利きが右サイドから上げるのは厳しい。でも、メッシのプレーエリアは、もう少し手前のスペース、ペナルティーエリアの右サイド付近。ここだったら右足でクロスを上げても精度も落ちないし、パワーもあまり使わなくていい。それに彼はうまくてタッチ数も多いから、縦に抜いてからもいろいろなことができる。そういう意味でも、ペナルティーエリアの右サイド付近で左足でボールをもたれたらDFはすごく怖い。切り替えして左でシュートも打てるわけですから。
 これは右利きが左サイドにいる場合も同じで、バルセロナでいうとアンリ、エトーもそのあたりのスペースが好きですし、マンチェスター・ユナイテッドのルーニーもそうですね。

 左利きが右にいても、右利きが左にいても、インサイドにドリブルすることが絶対に多くなります。そうすると、DFは相手が縦に来るのかインサイドに来るのかが分からなくなります。さらに、一番大事なのは、インサイドに入ることによって空く外のスペース。味方に運動量のあるサイドバックがいれば、2対2の状況になってここをうまく使えます。この場合、DFは外に意識がいくから、インサイドに入りやすくなる。

 バルセロナだと、ダニエウ・アウベスですね。彼は技術はないけど、よく走る。だから、メッシは自身が突破する縦のスペースもおとりにできるし、アウベスが来てくれればよりおとりに使えるという利点があります。DFにとっては横(インサイドへの動き)と縦(空きスペースの利用、またはダニエウ・アウベス)と選択肢が増えますから、対処がより難しくなるんです。

 チャンピオンズリーグの決勝ではプジョルが右サイドを務めたでしょう。ただ、メッシは中央に入った。それはプジョルがサイドバックをやっても、メッシが生きないからです。もちろん、エトーと違ってメッシが引いてプレーする分、(マンUの)ビディッチとファーディナンドのセンターバックコンビが前に出ていいのかどうか迷うということもあったと思いますが。

――つまり、左利きの選手が右サイドに移ることでプレーの選択肢が増えると

 そうですね。ロングボールだけはインサイドに構えて蹴らなければいけないので、多少難しいですけど。(左利きの選手が右サイドにいることで)相手DFがやりづらくなるのは確かです。それに、(左足で蹴られた右サイドからの)クロスボールはよりゴールに向かっていきますから、DFは半歩〜1歩分だけカバーに注意を払う必要がある。そこでDFの意識が左足に行けば、(攻撃の選手はドリブルで)切り替えして縦に切れ込むこともできます。要はDFが守りにくいんです。

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