「城島ノート」で勝ち取った信頼

丹羽政善

復帰初戦で見事なリード

早い段階で投手陣からの信頼を勝ち取り、好リードを見せている城島 【Getty Images】

 城島健司の試合勘は、まったくさび付いていなかった。

 右足太ももの肉離れで、戦線離脱。4月16日(現地時間)、イチローと入れ替わるようにして故障者リスト(DL)へ。それからおよそ2週間も試合から離れたが、肝心な場面でのリードに“ブランク”という言葉など無縁だった。

 復帰初戦となった5月1日のアスレチックス戦。
 7回、1点をリードしている場面で、2死からマット・ホリデーに同点ソロを浴びる。「痛かった」と正直に本音を漏らしたが、9回にやはりホリデーを迎え、三振に抑えた場面を振り返ると、「ホームランで習った」と話した。

「(7回の打席では)スライダーを完全に狙われていた。その前のスライダーを空振り(※1)。自分が悪いスイングをしたボールを、次に狙って行くタイプなんでしょうね」

<7回 対ホリデー>
1球目 スライダー ボール
2球目 スライダー 空振り※1
3球目 ストレート ボール
4球目 スライダー 本塁打


 彼は、そこで、とっさにホリデーのタイプを読み取る。それは、誰に教えられるでもなく、長年の経験から得たもの。

 9回、ホリデーを迎えると、2−1からの4球目を調子を上げてきた相手主砲がファール(※2)。その時のストレートにタイミングが合っていると感じた城島は、敢えて、「次も真っすぐ」と、確信を持つ。案の定、次のストレートにホリデーのバットはピクリとも動かなかった。

<9回 対ホリデー>
1球目 スライダー ボール
2球目 スライダー 空振り
3球目 スライダー 空振り
4球目 ストレート ファール※2
5球目 ストレート 見逃し三振


 ここでも、2球目と3球目にスライダーを空振りしているが、そこから勝負球をストレートとはじき出したわけではなく、あくまでも「4球目のファール」という。

「あれが、つまったファールなら、ストレートを待ったかもしれない。『ストレートに合っている。ならば変えてくる』。ホリデーは、そう読んだのかもしれないですね」

 後日そう話した城島は、自信を持って5球目に真っすぐのサインを出した。

 従った投手(ケリー)には、メジャー初勝利が転がり込んだ。

開幕戦での“大きな場面”

 ことしの城島は、早い段階で投手の信頼を勝ち取った。

 開幕直後、辛口で知られる『シアトル・タイムズ』紙のコラムニスト、スティーブ・ケリー記者が、ある場面を引いて、城島と投手の関係の変化をさっそく記事にしている。

 それは、ちょっとした驚き。
 実は、開幕3戦目の試合前、ケリー記者とミネアポリスのダウンタウンでランチをともにし、そのときこんなことを聞いてきたのである。

「開幕戦の初回、2死二、三塁のピンチで、ジェイソン・キューベルをワンバウンドの変化球で三振にとった場面があっただろう? あのワンバウンドは、意図的だと思うか、偶然だと思うか?」

 その返答に困ることはなかった。城島とは試合後、ちょうどそんな話をしていたのだった。
 記憶をたどるまでもなく、城島が、ワンバウンドしてもいいから低めに投げろ、とマウンド上のフェリックス・ヘルナンデスに指示していたこと、実際にワンバウンドとなり、城島はそれを止めたが、それによって投手に安心感を与えられた、などと話していたことなどをかいつまんで話せば、「フン、フン」とケリー記者は、食後のコーヒーをすすりながら聞いていた。
 別れた後、再び彼とは球場で合流。マリナーズのクラブハウスに顔を出せば、ケリー記者が投手コーチをつかまえて話している姿があった。その後、彼は城島のところへ。

 すると翌日、その会話が記事になったというわけ。

 キューベルのスカウティングリポートには、こうあったらしい。
“外角のボールになるスライダーに手を出すクセがある。2ストライクなら、なおさらその傾向が強い”

 城島が、そのサインを出し、ヘルナンデスがうなずく。当然のことだが、走者が三塁にいるだけにリスクも伴う。しかも、開幕戦の初回。どうしても先制点はやりたくない。
 そういう状況下で、城島はワンバウンドを投げさせ、それを止めた――ケリー記者は、そう話を展開させながら、こう結んでいた。

「ゲームの中では、小さな場面だったかもしれないが、城島にとっては大きな場面だった」

 ワカマツ監督もケリー記者の論旨に同意している。

「ああいったプレーで投手の信頼を勝ち取る。小さなことかもしれないが、関係を築く上では大切なプレーだった」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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