新世代が担う鹿島の新たな“黄金時代”

田中滋

偉大なるモチベーター、オリヴェイラ監督

内田(右)や興梠ら若手の台頭が今季の鹿島の安定感を生み出した 【写真は共同】

 その後の鹿島は、途中エアポケットに入ったかのような気の抜けた戦いで天皇杯を落とすこともあったが(11月15日の清水戦、3−4)、上位との直接対決となった第32節(同23日)の大分トリニータ戦では、転機となった清水戦を再現するかのような気迫を見せて相手を圧倒。中後や青木がセカンドボールを支配し、復活した内田のゴールで大分が誇る堅守を粉砕した。さらに、かつて覇権を争った第33節(同29日)のジュビロ磐田に対しても、ロスタイムの終了直前のプレーで岩政が劇的な決勝点。苦しい試合展開でも、秋田豊のヘディングで制してきた、かつての“黄金時代”を想起させるような勝ち方で、優勝を大きく引き寄せた。

 昨季の優勝は、小笠原のリーダーシップに引っ張られて成し遂げたものだとすれば、今季の優勝は、その下の世代が原動力となった。小笠原抜きでも勝ち切ることができたのは、彼らにとって大きな自信となっただろう。そして、タイトルを逃し続けた経験を糧に、それを開花させ、選手を後押ししたのが、就任2年で2度のリーグ制覇を達成したオズワルド・オリヴェイラ監督だ。

 選手たちからは「監督は、練習からよく見ている」という声が何度となく聞こえてくる。中後と青木の特徴を見抜き、明確な役割分担を与えたことに代表されるように、選手の気持ちを汲むのが実にうまい。努力する選手は試合に起用され、逆に努力を怠ったり調子を落とせば試合からは外される。当たり前の選手起用だが、このブラジル人監督の場合、そのタイミングが絶妙だ。今季途中、ポジションを失った野沢拓也が、最終節で決勝ゴールを挙げ、監督のもとへ走り寄っていったのは象徴的だ。

 モチベーターとしての手腕も抜群。第33節、ホーム最終戦ということで試合終了後にサポーターへのあいさつを行った監督は、あまりに劇的な勝利に感極まった。ポルトガル語でのあいさつだったので、何を言っているのかはまったく分からない。しかし、聞いている誰もが気持ちを大きく揺さぶられたことは、通訳が入る前にスタジアム中から大きな拍手が沸き起こったことからも明らかだ。

「僕たちは普段から、ああいう監督を見ている。ああいう熱さに引っぱられている」(岩政)
「サッカーに関しても、何に関しても熱い」(中後)

 そう選手たちが語るように、大事な試合前には、ミーティングで監督の熱弁がふるわれる。これで熱くならない選手はいない。

選手・監督の能力だけではない、鹿島の強さを支えるもの

 2連覇を達成した鹿島は、来季は3連覇に挑むことになる。「戦い方を変えてくるチームが多かった」と内田が語るように、今季も他チームから厳しくマークされた鹿島。来季は、さらに難しい試合が増えることだろう。
 同じことの繰り返しでは、タイトルを獲得することは困難だ。今季、成長した選手に加えて、けがをしていた主力も戻ってくる。選手起用はさらに選択肢を増し、監督の手腕もさらに問われることになる。もっとも、鹿島の特徴を「高い安定感」と定義するなら、それを支えるのは選手・監督の能力だけではない。

 優勝した最終節の先発選手を見ると、外国籍選手のマルキーニョス以外、移籍組は新井場と伊野波のみ。あとはすべて生え抜き選手が固めている。フロントの強化がぶれないことも、12冠という他の追随を許さないタイトル数を獲得した要因だ。さらに昨季からは、選手による学校訪問など地道なホームタウン活動を行ってきたこともあり、観客数も5年ぶりに2万人台を突破している。

 チームの限界が見えての優勝ではなく、これからの上積みが期待される中でのタイトル獲得。今季の鹿島の優勝は、新“黄金時代”の到来に大きな期待感を抱かせる戴冠となった。

<了>

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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