プレ五輪で浮き彫りになった、中国の観戦マナー

朝倉浩之

各競技場が競う「観戦マナーコンクール」

観戦マナーの向上に努める中国だが、テニス会場では、プレー中に立ち歩くなどのマナー違反が見受けられる場面も多々…… 【朝倉浩之】

 今年8月から、五輪のテスト大会となる「グッドラック北京」シリーズ大会が続々と開催されている。来年の本大会の競技場が使用され、試合の進行、ボランティアや報道の対応などすべてが『五輪仕様』で行われるものだ。その大会運営は、スタッフが競技場ごとにチームを結成し、独自の指揮系統を作って当たる。「北京大学体育館組」、「五輪村組」などという具合にである。そして、来年の北京五輪では、各チームがそのままそれぞれの競技の運営に当たることになる。そのチームを対象に、今行われているのが「グッドラック北京 文明観戦コンクール」と名づけられた活動だ。あまり表には出ていない活動だが、2007年中に行われるプレ五輪の中で、もっとも応援が整っていて、観戦マナーが良かった「競技場チーム」を表彰しようというもの。現時点(12月末)はまだ審査中で結果は分からないが、北京五輪に向けて市民のマナーアップをテーマに掲げる中国ならではの取り組みといえよう。だが、当局の思いとは裏腹に、一連のプレ五輪では観戦マナーの問題点が明らかになったのも事実だ。

テニスでは試合の中断も

 特に浮き彫りとなったのは、厳格な観戦マナーが求められるテニスだろう。10月半ばに行われたプレ大会では、欧米を中心に選手らが試合後、口々に観客のマナーの悪さについて触れた。ゲーム中に観客席を移り歩く人たちが多く、試合が中断する場面が幾度もあった。英語と中国語で注意を促すアナウンスが流れたが、そのガヤガヤが静まる気配はない。トスを挙げる瞬間や試合のポイントとなる場面で携帯の着信音が鳴ったり、話し声が止まらなかったりという情景が見られた。

 もちろん、このテニス場でも、さまざまな働きかけをしていた。大会前、あらかじめインターネットの公式サイトで、テニスの観戦マナーを記した「観賽(観戦)指南」を公開していたし、当日の会場でも『プレーの始まる直前には声をかけない』、『むやみに立ち歩かない』、『中国以外の国の選手に対しても温かい声援を送ろう』といった場内アナウンスをしていた。また、不釣合いなほど多くのボランティアを観客席の各所に配置し、プレー中に入退場しようとする人や携帯電話で会話をしている観客に注意を促していた。だが、大学生に過ぎない彼らでは、とても手に負えないというのが正直なところだった。

改善に向けて市民講座を実施

 マナー向上の呼びかけは競技場内だけではない。今月7日、北京市海淀区のある地区では、地域住民250人が参加する「卓球観戦マナー講座」が開かれた。講師は北京市卓球協会の副会長や北京体育大学の助教授など。「講座」では、卓球の試合を観戦するときの具体的な約束事から、市民として五輪を迎える心構えまで、内容は多岐にわたった。この地区には、来年の卓球会場となる体育館があり、『国技・卓球』を地域住民挙げて盛り上げていこうということだろう。

 実は、こういった『市民講座』の目的は、単にスポーツ観戦のマナーアップだけではない。五輪開催を契機に、中国政府は市民の生活マナーそのものを改善したいと考えている。列車やバスで並ばない、赤信号を守らない、つばや痰(たん)を吐くなど国際的に芳しくないイメージを改善することが、北京五輪の目的の一つというわけだ。そのための手段の一つが、競技場での観戦マナー向上の呼びかけである。

 だが、今年行われたプレ五輪の様子を見る限り、その道のりはまだまだ遠そうだ。スポーツを『国威発揚の道具』として使ってきた中国が、市民も巻き込んだ本当の意味での「スポーツ王国」となるためには、“見る側の成熟”がまだ必要である。来年やってくる世界中のアスリートを北京市民が「ホスト」として、いかに迎えるか……今後の中国スポーツの発展とも関わる大きな課題といえよう。

<了>
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著者プロフィール

奈良県出身。1999年、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。2003年、中国留学をきっかけに退社。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする各種ラジオ番組などにも出演している。

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