福留孝介に突き付けられた重い課題

阿部太郎

ドジャースに3連敗 あっけなく幕を閉じた福留の1年目

ドジャースとのプレーオフ3戦目にスタメンから外れた福留、メジャー1年目が終わった 【Getty Images Sport】

 福留孝介のメジャー1年目はあっけない形で幕を閉じた。プレーオフ地区シリーズで、カブスはドジャースにまさかの3連敗。福留自身も、5日(日本時間)の第3戦ではスタメンから外され、途中出場でセンター前ヒットを放ったものの、プレーオフでは3試合で10打数1安打に終わり、屈辱の中でシーズンを終えた。レギュラーシーズンの開幕戦で衝撃的な3ランを放ち、割れんばかりの「フクドメ」コールを浴びてから約6カ月。最後は、ファンから大ブーイングを浴びてグラウンドを去った。
 プレーオフ第2戦の後、ルー・ピネラ監督はこう吐き捨てた。「福留を使う意味がない」。敗戦での怒りの矛先は、完全に背番号「1」に向けられた。そして、地区シリーズ敗退により、現地メディアからプレーオフ敗退の戦犯扱いされるのは間違いない。来年はファンの厳しい目も待っている。福留にとっては、今季以上にいばらの道が待っているかもしれない。

 今季の福留は、6月下旬に左ふくらはぎの張りを訴えて以降、調子を上げることなくシーズンを終えてしまった。7月以降の不振の理由に関して、福留はシーズンに入る前の練習不足を挙げた。

「最初、春先に(不調が)出なかったのが不思議なくらい。自分の中でいまいち消化ができない部分っていうのが(シーズン当初から)あった。その辺がうまく消化しきれず、最後に尾を引いちゃったのはある」

 日本ではシーズン半ばでも、やり直しがきくという。メジャーに比べれば、日程的にも十分余裕があるし、練習場所も確保される。だが、メジャーは日程が厳しい上に、練習場所もなかなかとれない。オーバーワークの恐れがあると、首脳陣から「待った」が掛かる。福留は「それがこっちの野球なんで、言い訳するつもりはない」と話したが、終盤は体のキレも、ボールへの対応も、明らかに精彩を欠いていた。

自分のスタイルを貫いた結果

 シーズンの終盤、福留はスタメンを外れる機会が多かったが、表情は暗くはなかった。むしろ、明るかった。おそらく本人には、ことしはどうにもならないという「あきらめ」が少し入っていたのだろう。レギュラーシーズンが終わった際、福留はこう話した。「(シーズン後半の不振は)予想の範囲内。こんなもんだろうなというのは自分でもある」。シーズン途中、付け焼き刀で何かを変えても、来年以降につながらない。かたくなに貫いたその姿勢。ただ、首脳陣は結果が出ないままスタイルを変えない福留に対して何を思ったか。もどかしさは、当然持っていたと思う。

 「自分はちっちゃいころから頑固だから」。8月下旬、ピネラ監督が直接指導に乗り出したときも、その「頑固さ」は垣間見えた。監督のアドバイスに耳を傾けはしたが、「今までの(自分の)スタイルという話になったときは、もう少し(自分の中で)ここをこうした方がいいのかなという部分もある。それは今まで僕を見ているわけではないので仕方がない」。
 9月中旬には決定的なシーンがあった。打撃練習中に、カブスの永久欠番選手で、球団のアドバイザーも務めるビリー・ウィリアムスが、福留のもとに歩み寄り、ショート(左方向へ)へノックを打つように命じた。福留はしぶしぶといった感じでそれに応じたが、表情は明らかに曇っていた。ウィリアムスは「彼は今、少し引っ張り過ぎる傾向にある。だから、しっかりとボールを見て、体が開かないように打席に立つように心掛ける必要がある」とノックをさせた理由を語った。だが、福留にとっては解せなかったのかもしれない。自分の打撃技術に関して、確固たる信念があるがゆえ、福留をずっと見ていない監督やコーチ、そして、周囲の指導は少し違和感を覚えた。

1年目で直面した課題 来季どうクリアするか

 客観的な視点が足りなかったことはないか? シーズンの総括でこう問われ、福留は真っ向から否定した。

「客観的な視点っていうのはいくらでも探そうと思えば探せる。今はビデオとかそういうのもある」

 ただ、自分が今どこが悪いのか客観的に理解したとしても、それを修正する処方せんを、今季の福留は持ち合わせていなかった。即効性のある処方せんを与える人もいなかった。そして、そのままシーズンは終わりを迎えた。

 シーズンの始めから終わりまで、一貫して「日本のスタイルを変えない」と話した福留。その結果として、メジャー1年目が成功だったとは言い難い。だが、今季意図的に「変えなかった」こと、ある程度予想して「もがき苦しんだ」ことが、来季以降にどうつながるのか。ことし残した大きな課題――。「それは自分次第で何とでもなる」。シーズンが終わっても、自信が失われることはなかった。2年目への扉は、閉ざされてはいない。

 <了>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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