俳優ジョン・キューザックが見つけた? 「フクドメッチの穴」=小グマのつぶやき

阿部太郎

「マルコヴィッチの穴」のキューザックがゲスト登場

 唐突で申し訳ないが、映画「マルコヴィッチの穴」を見たことがあるだろうか。ジョン・キューザックふんする人形師のクレイグが、15分だけ俳優ジョン・マルコヴィッチ(実在の人物)の頭の中につながるという穴を発見し、入り込んでみたいという人たちを相手に「マルコヴィッチの穴体験ツアー」を企画して商売するという奇想天外なコメディーである。日本でもけっこうヒットしたから、タイトルだけでも聞いたことがあると思う。ジャケットが気持ち悪いぐらいマルコヴィッチ一色で、その印象を持っている人も多いかもしれない。

 なぜ、この話から始めたかというと、先日24日(現地時間)にその主人公を演じたキューザックが、リグレー・フィールドを訪れたからである。彼はイリノイ州のエバンストン出身。シカゴでも映画の撮影をするなど地元を愛する男だ。そして、年に1度は7thイニングストレッチ(7回になるとスタンドのファンが立ち上がり、体を伸ばしながら歌を合唱する)のゲストとしてリグレーに招かれるという根っからのカブスファンなのだ。来場した彼を見て、すぐに「マルコヴィッチの穴」のクレイグがよみがえった(もちろん長髪でも、弱弱しくもなかったが)。彼は7thイニングストレッチで「テーク・ミー・アウト・トゥ・ザ・ボール・ゲーム」を歌ったのだが、その一室はわれわれプレスボックスの横で、かなり狭い場所である。そう、クレイグが「マルコヴィッチの穴」を見つけたレスター社の7と1/2階のオフィスのように……。クレイグ、見つけてくれよ、「フクドメッチの穴」を。そして、彼が何にもがき苦しんでいるのか、どうして不調に陥っているのか、発見してくれよ。そんなことを考えていた数分後、フクドメッチは2ラン本塁打を打った。しかも、代打で。この日、福留は初めて「休養ではない」スタメン落ちを経験し、ベンチから戦況を見つめていた。キューザックが歌っているとき、まだボードに「FUKUDOME」の名前はなかった――。

ときに頑強すぎてしまう福留の信念

「フクドメッチの穴」に入るのは難しい。春先から取材していて、そう思う。福留は技術的に詳しいことはなかなか話そうとしない。本人の中で穴に入れさせようとしない“防衛線”があるのだろう。「具体的には?」と質問すると、「内緒です」、「秘密です」と返答されることもある。

 ただ、これは報道陣に限ったことではないかもしれない。福留は日本で9年、バリバリの一線で活躍した選手である。その中で培ったことを、「メジャーでもやるだけ」と常に話しており、打撃に対する信念は確固たるものがある。だから、まだ1年通して見ていないコーチや監督が言ったことを、すぐに取り入れることはしないだろう。今月10日に打撃不振を現地記者に追及され、打撃コーチとしっかりと話し合っているのかを尋ねられたときも、「たまに話をしたりしますけど、ペリー(コーチ)も(ことし)初めて僕を見ているわけだし、どの時がいいのか、どの時が悪いのかというのは、まだはっきりと分からない状況がある。それは話をしながらこちらも対応をしていかなきゃいけない」。

 確かに、プロとして、メジャーリーガーとして当たり前のことだ。言われたことをただやっても、自分の中で消化しきれなければ意味がない。ただ、結果が出なければ、自分のスタイルを貫くのは至難の業である。貫いたとしても、それで打てなければ、どんどんと風当たりは強くなる。そして、スタメンを外される、という道が迫る。

キューザックの予言?

シカゴ・カブスを愛する俳優ジョン・キューザック 【Getty Images/AFLO】

 福留がスタメンを外された日、ルー・ピネラ監督が直接指導に乗り出した。ビデオを見て、そして打撃ゲージで「長い時間話し合った」という。ピネラ監督は「ごくごくシンプルなこと。踏み出したときの足幅を狭くすること。そして、球に対してコンパクトに、最短距離でとらえることを話した」と明かした。そして、この数時間後、福留はその前日とは見違えるほどの思い切りのいいスイングで球をたたき、ライトスタンドへ弾丸ライナーで飛びこむ9号2ランを放った。結果が出たということもあるが、ホームランを放った打席と、その前日、本拠地で初めてブーイングを浴びた打席。別人のような背番号「1」に驚く。そして、想像する。ピネラ監督は「フクドメッチの穴」に入ったのか、と。

 だが、われわれの前で福留はこういった。「(監督の)言ってることは理解できます。(ただ)それが今までのスタイルと、という話になったときは、もう少し(自分は)ここをこうした方がいいのかなという部分もありますけど。それは今まで僕を見ているわけではないので、仕方がないこと」

 やっぱり「フクドメッチの穴」に入るのは難しそうだ。

 そういえば、キューザックが意気揚揚と球場を引き揚げる際、突撃取材を敢行。「穴は見つけたか?」とは言えず、福留について聞いた。そして、何やら予言めいたことを言って、姿を消した。「(スランプは)みんなが通る道。大丈夫。彼ならやれる」

  ホームランを打った翌日、福留は5月14日以来、実に3カ月ぶりの3安打と爆発。メジャー自己最多の4打点をたたき出した。この日、福留は監督やコーチが見守る中、早出特打ちを行った。自分の知る限り、福留の早出特打ちはメジャーに渡ってから初めてのことだ。
 もしや――。クレイグが「フクドメッチの穴」を見つけて、監督やコーチに教えたのかな!?

<了>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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