イチロー、「200」安打はまだ「近くない」

阿部太郎

得意な相手から3安打も…

日本時間19日の試合で3安打を放ち、200安打まであと「38」としたイチロー 【写真は共同】

 いつもであれば2時間30分もかからずに終わるだろう、と思われた試合。ホワイトソックス、マーク・バーリーの先発に、エレベーターにいた球団職員も試合前「きょうは短い試合だろうね」と相好を崩していたが、終わって見れば2時間43分。バーリーの持ち味はあまり発揮されなかった。

 彼の前に立ちはだかったのはイチローだ。4度の対戦で3度出塁。バーリーを6回途中5失点で降板させた要因となった。イチローにとっては“カモ”と言ってもいいだろう。この試合前まで通算35打数14安打、打率4割。そして、この試合でもそれを証明するように、イチローはバーリーから3安打を放って見せた。“してやったり”かと思ったが、試合後本人は「僕がやるか、やられるかは紙一重」と話す。数字を見ればまさに“お得意さま”だが、イチローは違う感覚を持っていた。「(簡単な投手)なわけないじゃん」。とっさに発した一言は少し意外に思えたが、それは本心から出た言葉だったように思う。数字からはみえないもの。イチローには常に数字がまとわりつくが、そういったものから一度遠ざかってみた方がいいのかもしれない。

残り38試合で38本

 さて、この日の3安打で、8年連続「200」安打まで残り38本とした。客観的に、例えば記者の立場として、162本というと「大台までそろそろか」となるが、イチローは、まだ200には近づいていないと言う。

「遠のいてはないよ。でも、近づいている感じはない」

 われわれの皮算用での数字と、イチローが思い描く数字、そこに「ギャップがある」と話す。それが「面白いよね」とも表現したが、ある種「そう簡単に言ってくれるなよ」という意味合いもあったかもしれない。そういえば、2004年にシーズン最多安打の262安打を放ったとき、次の目標は「次のヒットを打つこと」と答えたが、その返答に彼の考えが透けて見える。希代のヒットメーカーは誰よりもヒットを打つことは難しいと思っている。だからこそ、残り38本は「近くない」ということか。

 ただそれでも、162安打を放ったことを「一つの大きな到達点」と位置づけた。残り試合数は38。1試合に1本ペースで「200」という数字に到達する。

「少しことしは遅いですけど、まだ1カ月以上ある段階でひとまずたどりついたのは大きい」

 「200」安打という絶対的な目標。「近くはない」という、そこまでの距離への表現と、1試合1本ペースになって「大きい」と手ごたえをつかんだ言葉。「200」本への正確な尺度はイチローだけが知っている。
 そして、その過程での苦しみも、喜びも、イチローだけにしか分からないのだろう。

<了>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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