市民の熱気ムンムン! 熱く燃えた8月8日

朝倉浩之

8月8日の北京は、ミニ国旗や五輪旗を手に持った大勢の市民であふれた 【朝倉浩之】

 4時間あまりにわたる華やかな開会式から北京五輪の幕は開けた。注目の聖火リレーでは、重量挙げ、バドミントン、飛び込みなどで一時代を築いた、中国の超一流のアスリートが登場。そして最終ランナーは、中国不世出の体操選手といわれ、現在はスポーツ用品メーカーの実業家としても大成功を収めている李寧(リーニン)が務めた。「国家のためのスポーツ」を「“金になる”スポーツ」に変えていく――すなわちスポーツの市場化を目指す中国にとって、李寧を最終ランナーにしたのは象徴的な選択だったと思う。

 8月8日は中国にとって、1949年の「新中国建国」と並ぶ歴史的な日となった。そして市民にとっても、胸高鳴り、なぜかソワソワしてせわしい……。そんな特別な日となったに違いない。

北京市内はオリンピック一色

 朝から北京市内はオリンピック一色。CCTV(中国中央テレビ)は特別番組を放送し、右上には「開会式まであと○時間○分○秒」と秒刻みでカウントダウンを行っていた。企業、国家機関の多くが休業。スーパーや百貨店などはさすがに通常営業だったが、美容室や書店などは早くに店を閉じ、夜8時に備えるところが多かった。

 開会式の会場となる国家体育場(愛称:鳥の巣)は朝10時半からすでに厳戒態勢が敷かれ、周囲1キロが封鎖されて、関係者以外は立ち入り禁止となった。スタジアム南側は、普段、歩行者や自転車が頻繁に行き交う主要道路の一つ。予想されたこととはいえ、ここが完全に行き来できなくなったことで、封鎖線では、市民と警官がやり合う風景も見られた。

 少しでも五輪ムードを味わおうと、大勢の市民が集まり、周囲はいつもと異なる雰囲気に包まれている。市民はそれぞれミニ国旗や五輪旗を手に持ち、最近流行りとなっていた「アイラブ中国」と書かれた白Tシャツを着ている人も多い。そして、顔には中国国旗のペイント、シャツの左胸には国旗シールを貼り、祖国で初めて開かれる大イベントに大いに期待している様子がひしひしと伝わってくる。杭州市から当日朝にやってきたという大学生グループの女性は、「チケットは一つも持っていない。でも北京五輪の雰囲気を味わうために来た」と目を輝かせて語った。

 遠くから「がんばれ! 中国」「がんばれ! 五輪」と叫ぶシュプレヒコールが聞こえてきた。近くの学生たちが大型の中国国旗を先頭に、まるでデモ行進のように会場周辺を練り歩いている。千人あまりはいるだろうか。若者たちが、ミニ旗を振りながら、張り裂けんばかりの声を上げて、「がんばれ」を連呼する。まるで地鳴りのように太い声が多くの市民の関心を引き、続々と一般の市民が集まってきた。そして、彼らの列の後ろにつき、その“デモ隊”の規模はどんどん広がっていく。封鎖線で警官とぶつかったが、叫んでいるのは「愛国」であり、何ら違法な活動でもないので、警官もなすすべがない。「通せ」という学生たちの勢いに押されながら、必死に道のりを変えるよう説得するのが精いっぱい。結局、“デモ隊”は隣の住宅地の中にコースを変更し、警官もほっとした表情で見送っていた。

想像以上の熱狂となった開会式

 開会式の際は花火が打ち上げられることになっている天安門広場も、昼過ぎからすでに膨大な数の市民が詰め掛け、夜8時を待っていた。近くの商店も軒先に中国国旗を掲げている。7日から、天安門南側には明・清時代の街並みを再現した巨大な通りがオープンし、終日家族連れで賑わっているが、この日は人出も最高潮。観光の外国人も多く見られ、彼らも1つ10元(150円)で売りつけられたミニ国旗を手に、通りを歩いているのが面白かった。

 夕方になり、開会式が刻一刻と近づいてくる。北京一の繁華街である王府井、夜の街としてバーが立ち並ぶ三里屯、そして天安門広場などには大画面が用意され、開会式のパブリックビューイングが行われることになっていた。会場には続々と市民が詰め掛け、陣取り合戦を始める。気がつけば、膨大な数の市民が大画面を取り囲み、式典開始前から、周囲は異様な熱気に包まれていた。

 そして開会式の開始。その最中の熱狂ぶりは言わずもがなだろう。ほんのひと月前までは生活の規制ばかりが目に付き、市民レベルでの盛り上がりは感じられず、本当に五輪が始まるのだろうかという状況だった。だが、ここ数日の北京市内での聖火リレーで、ムードは一気に高まり、8月8日はそれがピークに達したといっていいだろう。市民の五輪への期待、そして同時に祖国に対する「愛国心」の高揚は、当初の想像以上のものに膨れ上がっている。

 一夜明けて、9日朝のCCTVは開会式の再放送と、「中国第1金(メダル)」に向けた盛り上げ番組が次々に放送されている。町も昨夜の熱気さめやらぬという感じで、行き交う人々の会話のところどころに「カイムーシー(開幕式)」という言葉が聞こえてくる。いよいよ9日から、競技が本番。北京の町の表情がどう変化し、また変化しないのか――2週間あまりの盛会を見守っていきたい。

<了>
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著者プロフィール

朝倉浩之

奈良県出身。1999年、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。2003年、中国留学をきっかけに退社。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする各種ラジオ番組などにも出演している。

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