日本最速の男・佐藤久佳、天国の父に誓うメダル=競泳 ハギトモの北京五輪注目スイマー vol.4
日本人で初めて50秒の壁を突破
男子自由形100m代表の佐藤久佳。家族のためにも、そして52年ぶりの五輪決勝に向け、いざ出陣だ 【Photo:望月仁/アフロ】
男子100m自由形の世界記録は、76年モントリオール五輪でジム・モンゴメリー(米国)が初めて50秒を切る49秒99を出してから、驚異的な記録の伸びを見せていきます。一方、日本のスイマーは海外のスイマーと比べ、パワーと体格差で劣り、記録は離されるばかり。その後、世界は47秒台を記録(現在の世界記録はフランスのアラン・ベルナールが今年3月に記録した47秒50)するも、日本はずっと50秒の壁を突破できずにいました。しかし、そんな男子自由形に今から3年前、大きな転機が訪れます。
世界に遅れること29年――。2005年の日本学生選手権男子100m自由形で、一人の選手が、日本人として初めて50秒の壁を突破したのです。主役となったのは、後に北京五輪の日本代表となる佐藤久佳選手、当時18歳。その後、彼は世界との29年間の空白を埋めるかのように、記録を大幅に短縮していきます。
07年夏には、日本で開催された世界選手権で、49秒22と日本新記録を樹立。そして、その約2週間後に行われた日本学生選手権で、彼自身の目標でもあった48秒台へ突入しました。彼のマークした48秒91は、日本自由形の強さを世界へアピールできた瞬間でもありました。この記録は、04年アテネ五輪100m自由形決勝の結果と照らし合わせてみると、5位に相当するもの。48秒台は、世界と戦うことのできる世界基準と言えるタイムなのです。
日本最速からアジア最速へと成長
水の抵抗を受けにくいスマートな泳ぎ。体の柔らかさとしなやかさに、目を奪われました。手を入水した時に、全く泡をつかまないストロークの繊細さ、そしてスタート、ターン後、ドルフィンキックのむちのようにしなる足首。特に、足首の柔らかさには、天性のものを感じました。体がよく水に浮き、一本の棒のように、頭から足まで同じ高さに保つことができるのも、彼の強さです。
私も現役時代、100m自由形にチャレンジしていましたが、彼の泳ぎを見ていると、私が現役時代に追い求めていた、まさに理想の泳ぎでした。しかし彼は、まだまだ発展途上。実は100m自由形を本格的に始めて、まだ5年と経験は浅いのです。それまでは、個人メドレーを専門の選手として、試合に出場していました。そんな未完成の彼はこの5年間で、日本最速からアジア最速へと成長しました。