土壇場での大物移籍と球団の思惑=MLBトレード総括

出村義和

先陣を切ったブルワーズとカブス

デッドライン直前にまとまったトレードでドジャースの一員となった前レッドソックスの主砲ラミレス 【Getty Images/AFLO】

 メジャーリーグは、半年にわたる長丁場のレギュラーシーズンを盛り上げるためにいくつかの仕掛けを用意している。7月31日(現地時間)に設定したトレード期限はその一つといえるだろう。優勝を狙える有力チームが、望みを絶たれたチームから不足の戦力を補強するトレードは、いつしかフラッグディール・トレードと呼ばれるようになった。その呼び名は本来、チャンピオンフラッグから由来するものだが、選手を売りに出す側の立場であるなら、降伏を意味する白旗と取ることもできる。

 ことしは開幕前の予想を覆す激しい戦いが展開されていることもあって、成立件数だけではなく、スケール面でも例年をはるかに超えるトレードがまとまった。
 真夏のトレード戦線の先陣を切ったのは、ナショナルリーグ中地区で、100年ぶりのワールドシリーズ優勝を目指すカブスに燃えるような対抗意識を抱くブルワーズだ。 プロスペクト(若手有望株)4人を放出して、インディアンスから昨年のサイ・ヤング賞投手のC・C・サバシアを獲得したのだ。オフの契約延長交渉が不調に終わっていたサバシアには、シーズン初めからトレードのうわさが立っていた。そんな中で、インディアンスは故障で次々に主力を欠き、優勝争いから脱落していった。放出の条件が整っていたのだ。

 この電撃トレードに直ちに反応したのは、もちろんカブスだ。翌日には3人の若手メジャーリーガーにマイナーリーガーを付けて、アスレチックスのパワー投手、リッチ・ハーデンとリリーフのチャド・ゴーディンのトレードをまとめ、投手陣のアップグレードに成功した。
 またマーリンズ、メッツと激しい三つどもえレースを展開しているフィリーズは、本格的なチーム再建モードに入ったアスレチックスの先発の柱ジョー・ブラントンをプロスペクト3人と交換した。

インパクトを与えたエンゼルスのトレード

 大型の商談が成立する中でさまざまなうわさも飛び交った。トレード戦線には、イチローの名前まで浮かんだこともあったし、薬物問題の影響で一時休業中? のバリー・ボンズの名前が取りざたされる局面もあった。そのうわさの震源地となったヤンキースはしかし、松井秀喜の左ひざ故障で手薄になっていた外野陣に、パイレーツで自己ベストのシーズンを送っていたハビエル・ナディーを加え、合わせて左腕リリーフ投手のダマソ・マルテを獲得した。放出したのは3人の若手投手と19歳の外野手。ヤンキースにとっては、将来を担うようなブロペクトの放出を避けられただけに、メリットのあるトレードだったといえよう。

 インパクトを与えたのは、エンゼルスがブレーブスからマーク・テシェイラを獲得したトレードだろう。テシェイラは4年連続30本塁打を記録している強打のスイッチヒッター。開幕から3カ月も続いた打撃不振はやっと上昇の兆しをみせているが、ことしのエンゼルス打線は安定感に乏しい。特に、主砲のブラディミール・ゲレーロに例年の爆発力が見えないだけに、テシェイラの加入は絶大な効果を発揮するだろう。さらに、堅い野球を実践するエンゼルスには、うってつけの守備の名手であることも心強い。交換要員となった同じ一塁手のケーシー・コッチマンも守備のうまい選手だが、テシェイラはすでにゴールドグラブ賞を2回も受賞している。

 両リーグ6地区の中で唯一独走態勢に入っているエンゼルスが、大幅な戦力アップしたことで、強力な補強をせざるを得なくなったのが、ヤンキースとレッドソックスである。

世紀をまたいで活躍する選手たちの移籍劇

 ヤンキースは肩を痛めていたホルヘ・ポサダが今シーズン絶望の手術を受けることに伴い、代役のホセ・モリーナ程度の捕手を探していた。だが、エンゼルスのテシェイラ獲得の情報が入ると、超大物狙いに切り替えた。それが、ゴールドグラブ受賞13回の最強捕手イバン・ロドリゲス(前タイガース)というわけなのだ。放出したのはセットアップマンのカイル・ファーンズワース。投球にムラのある使いにくい投手だっただけに、ヤンキースにとってはおいしいトレードだったといえよう。

 デッドライン寸前に成立にこぎつけたのがレッドソックスだった。これまで、たびたび球団批判を繰り返してきた主砲マニー・ラミレスの処遇に悩んできたが、エンゼルスの衝撃的なトレードで背中を押す形になった。一度はマーリンズの絡んだ三角トレードが破談になったものの、そのマーリンズの代わりにドジャースを巻き込んだパイレーツとの三角トレードで4年連続20本塁打のジェイソン・ベイを獲得した。長打力不足のドジャースがラミレスを手にし、パイレーツは即戦力となる3人の若手とマイナーリーガーを戦力に加えた。

 また、ア・リーグ中地区でツインズと激しい首位争いを演じているホワイトソックスは、打線のテコ入れに今シーズン史上6人目の通算600本塁打を達成したケン・グリフィーをレッズから獲得した。

 真夏のトレード戦線は最後の最後になって1990年代から世紀をまたいで活躍する3人のビッグネームがトレードされた。いずれも望まれての移籍だが、交換相手をみると、いずれも不釣合いなほど小粒な選手。ことしは球史に残るようなスリリングなフラッグディール・トレードになったが、一方で時の流れを感じさせた。この3人のビッグネームが新天地で輝き続けられるのか。大いに注目される。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。長年ニューヨークを拠点にMLBの現場を取材。2005年8月にベースを日本に移し、雑誌、新聞などに執筆。著書に『英語で聞いてみるかベースボール』、『メジャーリーガーズ』他。06年から08年まで、「スカパー!MLBライブ」でワールドシリーズ現地中継を含め、約300試合を解説。09年6月からはJ SPORTSのMLB実況中継の解説を務めている

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント