福留が大先輩・清原にエールを送らなかった理由=小グマのつぶやき

阿部太郎

福留、不振脱出の気配

 オールスターが終わり、メジャーリーグは後半戦に突入している。この8、9月は選手にとっては一番つらい時期。前半戦の疲れがたまり、思うようなパフォーマンスを見せることができない選手が目につく。福留孝介も、6月下旬に左ふくらはぎの張りを訴えてから不調に陥り、オールスターが明けてもなかなか不振から脱出できないでいる。

 ただ、先日のマーリンズ4連戦、試合前の福留の表情はさほど暗くなかった……というより、どちらかといえば明るい表情を見せていた。「まだ(周囲から見れば)不振なのになあ」と思っていたが、「なるほど」とも思ったのが4連戦3試合目が終わった後の会見だった。足の状態に関して質問が飛ぶと、何のためらいもない口ぶりで「違和感はない」とコメントしたのである。
 以前であれば、「試合に出ている以上は問題ないということでしょう」と、何か歯切れの悪さも感じたが、そのときはやけにすんなりと言った。あまり感情を表には出さない男だが、やはり体調が戻れば自然と表情も明るくなる。さすがに、そこは“ポーカーフェース”を貫けなかったのか。

福留の口ぐせ

約1年11か月ぶりの復活が期待されている清原和博 【写真は共同】

 福留が口ぐせのように言う言葉がある。

「けがをしたら何もならないですからね」

 今春のキャンプ時からそう言い続けているが、その言葉の裏にあるものは自分自身の苦い経験だ。中日に在籍していた昨年は、右ひじの手術でシーズンの大半を棒に振り、2004年もシーズン途中に死球で左手人さし指を骨折し、結局は最後まで戦列に復帰することができなった。けがでプレーできないくやしさを、福留は身を持って知っている。6月下旬にふくらはぎの張りを訴えたとき、彼はルー・ピネラ監督に直接欠場を直訴したという。メジャー1年目でなかなか首脳陣には伝えにくいことが、福留は「大きなけがにつながらないために」あえて自分から打ち明けた。やはり、過去の経験がそうさせたのだろう。

 そう考えると、7月27日に福留が、2006年シーズン以来1年11カ月ぶりの復活を待望されているオリックスの清原和博へのエールを求められた時に発言した内容もうなずける。

「1年何カ月ぶりというのは、僕らが思う以上に、清原さん自身がすごくリハビリを必死にやってこられての舞台なんでね。僕らがエールを送るのは失礼にあたると思います」

 福留も、けがで休んでいるとき、1日が何週間にも、1カ月が何年にも感じたに違いない。フィールドでプレーできないもどかしさを知っている彼は、あえてPL学園の大先輩でもある清原にエールを送らなかった。「失礼」という言葉は、左ひざを手術し、長い月日をかけてリハビリを行い、必死に復帰を目指している清原の努力を思うと、とてもではないが、「エール」という簡単な言葉で片付けたくなかったことを意味する。

 不振でも福留が明るい表情を見せた理由。清原へエールを送らなかった理由。野球選手というのは結果うんぬんの前に、グラウンドに立たなければならない。そんな当たり前のことが一番重要なのである。福留がもう一つ口ぐせのように言う言葉で、今回の最後を締めよう。

「当たり前のことを当たり前にやるのが一番難しい」

<了>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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