五輪開幕直前! 緊張感を増す北京の今=最新リポート

朝倉浩之

緊張感に包まれた北京市内

五輪選手村がオープン。ヤオ・ミンらも参加し、華やかなセレモニーが行われた 【Photo:Getty Images/アフロ】

 先日、仕事が長引いて、深夜0時過ぎに北京を東西に走る大通り「長安路」を歩いていると、軍服に身を固めて不気味な足音を立てながら、整然と歩く武装警察官たち(中国人民解放軍所属の治安維持部隊)を見かけた。彼らは実弾入りの拳銃を持つ、一般の警察よりワンランク上の部隊。北京五輪を前にした、市内の治安維持を目的とする巡回活動だが、さすがに深夜の軍服集団は少し異様さを感じさせた。

 7月27日、五輪期間中の選手・役員らが滞在する選手村が華やかなセレモニーとともにオープンし、中国代表の劉翔(陸上)、ヤオ・ミン(バスケットボール)ら、五輪の「主役」たちが村内に足を踏み入れた。時を同じくして、北京首都国際空港には米国、ニュージーランド、キューバなどの選手団が降り立った。市内の様子はぐっと国際的な雰囲気に包まれ、待ちに待った五輪に向け、北京もいよいよ臨戦態勢に入ったと言えそうだ。だが、この華やぎの一方で、警戒態勢の強化によって、市内は緊張感に包まれている。この華やかさと緊張感の入り混じった空気こそが、「五輪を迎える町」独特のものなのだろうか。

治安確保のため11万人を投入

 北京五輪安全保障部によると、市内の治安確保のため11万人が投入されているそうだ。また公安当局は、各団地の住民を一軒一軒回って、身分証などをチェックするとともに、「怪しい人を見かけたらすぐに通報するよう」呼びかけている。また集会やデモの場所を規制し、地方からの陳情者はすべて、北京市南部の公園に「密封」するなどの非常に露骨な規制も始まった。

 市民に身近な点でいえば、地下鉄だろう。今月から、市内全駅でX線による持ち物検査と身体検査が始まり、制服姿の女性係員がすべての出口に配置されている。大型の袋やバッグを持つ人は軒並み、また普通のバッグなどもランダムに抽出されて、検査を受けるよう指示される。
 また、同じ地下鉄でいうと、私が毎日の出退勤で利用している地下鉄駅には、改札口を出たところに、ブティックやフラワーショップ、レストランなどが並ぶショッピング街があるのだが、ここは6月30日付ですべて閉鎖。各店のウィンドウには「“平安な五輪”のため、9月末まで休業」するとの張り紙が貼られていて、以前はにぎやかだったモールは、昼も夜も薄暗く、人々は足早に立ち去るのみである。ここは、五輪の競技場があるわけでもなく、周りは普通の住宅地。この規制が始まった当日、通勤時に毎朝、モール内の店で朝食のパンを買っていたというOLさんに話しかけた。彼女も「不便だけど五輪のためだから仕方ないわ。でも、ここまでしなくてもいいような気もする」と困惑気味だった。

 ほかにも、以前は郊外からトラックに野菜や果物を積んでやってきて売り歩く人たちや、廃品回収業者、新聞を売り歩く人たちなどを街中でよく見かけたのだが、これらも当局の指導により、姿を見かけなくなった。また小売店なども以前は、店先に果物などを置いて売る場合が多かったが、すべて店内に置くよう指導を受けたという。

「お祭りムード」の裏にある市民との温度差

 数え上げればキリがない規制の数々だが、その目的ははっきりしている。

 中国は今回の北京五輪により、経済発展の成果と市民の生活向上の姿を世界に「展示」することを大きな目的としており、そのためにはまず、外観が大事というわけだ。急な来客で慌てて片付けをするようなもので、いわば“取り繕い”ともいえるだろう。だが、もう一つの理由は、言うまでもなく中国政府が最も恐れているテロや「政治的行動」の防止である。

 先日、北京五輪の運営スタッフに対する最終の研修会が行われた。週末を挟む4日間、朝から夕方まで、みっちりと行われた研修会で、最も強調されたのは、競技場内でのトラブルにどう対処するか、であった。
 そこでは、「観客やメディア関係者が“違法な”政治スローガンや横断幕を掲げた場合にはどう対処するか」、「場内に怪しいビニール袋が置いてある場合は?」など具体的な局面を想定し、実地訓練も交えて、かなり念入りに行われた。そして、ボランティアの大学生たちに対しては、「場内にいる皆さんが国家の危険に対処する“一番手”。自覚を持って任務に当たるように」とその任務の重大性を強調した。一般の市民、運営に当たる若者たちも含めて、祖国の大イベント成功のために、身をていして頑張ろうということのだろう。

 今、北京のすべては五輪のために動いているといっても言い過ぎではない。世紀のイベントを迎えようとするのだから、当然のことだ。さらに、ここ最近の治安情勢の悪化が緊張感をさらに強めている。華やかなセレモニーの数々は一般市民にとって、実はブラウン管の向こうのことに過ぎない。実際の市民生活は、「お祭りムード」とは程遠い感じに見える。

<了>
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著者プロフィール

朝倉浩之

奈良県出身。1999年、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。2003年、中国留学をきっかけに退社。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする各種ラジオ番組などにも出演している。

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