厳重警備で進行中の式典練習 深まる五輪開幕式の謎

朝倉浩之

「鳥の巣」で行われる五輪開幕式の内容は、いまだベールに包まれたままだ 【Photo:Getty Images/AFLO】

 北京市中心部から遠く離れた郊外。ここに軍組織の一部である「人民武装警察隊」の訓練基地がある。基地から一定距離を置いたところに「警戒線」が張られ、兵士がものものしい様子で立っている。IDがなければ、一歩も近づくことは許されない。この最大級の警備体制が敷かれる場所で行われているのは、1カ月後に迫った北京五輪「開・閉幕式」の練習である。

 8月8日午後8時から、国家体育場(愛称:鳥の巣)で行われる開幕式は、約2万人が関わる国家を挙げた大イベントとなる。総演出は、世界的に知名度の高い映画監督、チャン・イーモー氏が務め、今年3月1日から、式典で披露されるパフォーマンスなどの練習が行われてきた。

 この“訓練基地”の内部には入れないから、あくまで関係者の話に過ぎないが、基地内にも警備の兵士が林立しており、全ての出演者とスタッフは同じ服を着ていて、「よそ者」が入ればすぐに目に付くようになっているそうだ。基地内はあちこちに「撮影禁止」の張り紙が張られており、普段の練習も含め、専属のカメラマン以外は一切、練習内容を録画、撮影することも許されない。

 開幕式の内容は“国家機密”級となっており、このように厳重な警備で守られてきた。だが、それでもさまざまな方面から、まことしやかな“情報”が漏れ聞こえてくる。噂や作り話などが錯綜(さくそう)する中、すべてを信用できるわけでないことを承知の上で、一体どんな開幕式になるのかを一足早く予想してみたい。

 チャン・イーモー氏が明らかにしたところでは、開幕式は大きく分けて「開幕セレモニー」「パフォーマンス」「選手入場」」「聖火点灯」の3部分からなっており、合わせて3時間半ほどのプログラムが予定されている。

10人しか知らぬはずが……漏れた?聖火の点灯方法

 このうち、最も厳重な「機密」とされているのが聖火の点灯だ。今のところ、分かっているのは、23時30分ごろに行われる、ということと、テーマの「天人合一(天地を一体とする)」のみ。チャン・イーモー氏によると、中国全土で、この点灯方法を知っているのは、わずか10人なのだとか。ただ、今年1月、開幕式が行われる“鳥の巣”の設計者の一人が、点灯方法を漏らしたとして、一時大騒ぎになった。

 中国メディアが伝える彼の話によると「“鳥の巣”の天井部分にドラゴンの形をした器材が置かれており、中には火炎放射器が据えつけられている」というのだ。そして、聖火の点火方法については、「誰かが火をつけると、競技場の周囲に勢いよく火がまわり、最後にドラゴンが火の球を吐いて、聖火台に火がともる」と“予想”する。これについては後日、五輪組織委員会の宣伝部長が「あくまで個人の想像に過ぎない」と一笑に付したものの、否定コメントをすぐに出した対応の早さから見ると、意外と当たっていたのかもしれない。なお点火方法については、設計者はもちろん、五輪委員会の委員でさえ「知らない」のだそうだ。

 また最終ランナーについても、さまざまな憶測が流れている。米プロバスケットボールのスター選手、ヤオ・ミン(姚明)や陸上110m障害の劉翔などを推す声も多いが、5月半ばの四川大地震を受けて、インターネット上では、「四川大地震にちなんだやり方を」を望む書き込みが多い。ある人は「ヤオ・ミンが被災者の子どもを肩車して、点火しては?」と提案する。この「子ども」とは、被災者の一人で3歳の男の子、朗錚(ろうそう)ちゃんのこと。倒壊した建物によって腕を骨折、指が切断されて救出されたにも関わらず、担架の上で救援隊に向かって敬礼をした写真は、多くの中国人の共感を呼んだ。北京の新聞「新京報」によると、この「3歳児の最終ランナー」については、すでに組織委員会も「真剣に検討中」なのだそうだ。

イケメン少林寺、中央には鉄骨箱 飛び交う“噂”

 開幕式で披露されるパフォーマンスにも力が入っている。全国各地から、民族芸能の一流の担い手たちを集めて、「民族の多様性」を表現する公演が予定されている。チベット舞踊や重慶の龍舞、また四川省からも民族舞踊団がすでに北京入りしており、またカンフーの聖地、少林寺からは拳法の達人4600人が参加する予定だ。彼らは「身長170センチ以上、16歳以上のイケメン」という厳しい条件をクリアして、5月下旬に北京に入ってきた。

 さらに、出演者を支えるメイク・ヘアデザイナーもえりすぐりだ。責任者によると、一流のメイクアップアーティスト500人を全国から選抜し、すでに開幕当日に向けて、忙しく準備を続けているそうだ。現在、式典に出演する各団体は個別練習を展開中。7月13日ごろから、実際の会場となる“鳥の巣”で全体練習が始まる。

 このほか、開幕式の演出については“謎”も多い。先月行われた陸上の五輪テスト大会で、私が“鳥の巣”を訪れた時に気になったのは、上空に無数に張り巡らされたワイヤーだった。少々違和感のあるものだったので、関係者に聞くと、笑いながら「場内音響のための設備」だと教えてくれた。観客席のどの位置にいても同条件で音響が聞こえる“最新鋭”のものなのだそうだ。

 一方、本当に「謎」の話もある。ある工事担当者が、フィールド中央の芝生に鉄骨製の巨大な“箱”が埋められていると「証言」した。ステージ状のものなんだそうだが、埋められているというのが面白い。総演出のチャン・イーモー氏の指示で設置されたもので、何に使用されるのかは分からない。最も権威のあるCCTV中国中央テレビの記者もそこに近づくことさえ許されなかったというのだが、一体、どんな仕掛けがあるのだろうか。
 また、先日、花火の打ち上げテストが行われたことは分かっているが、はっきりしているのは、花火が上がりそうだということだけ。「国家機密級」の式次第が、噂や作り話も含めて、無数に飛び交っているのは中国らしいが、それだけ関心が高いということだろう。8月8日当日までお楽しみ……といかないのが人間の情。こうやって、いろいろな“噂”をかき集めて、あれこれ想像をしてみるのもなかなか面白い。

<了>
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著者プロフィール

朝倉浩之

奈良県出身。1999年、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。2003年、中国留学をきっかけに退社。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする各種ラジオ番組などにも出演している。

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