高い代償の先に見えた今後への道=女子バスケット・北京五輪世界最終予選 総括
欧米諸国に善戦するものの、ミスから自滅
「チーム力が足りなかった。準備期間が短いこともあって、肝心なところでチームの特徴である組織的に“粘り切る”というところができなかった。十分な練習ができなかったことが、そのままコートに現れてしまいました」
結果から言えば、この大会のシステムと日本の実力からいって、日本が確実に五輪に出場するためには、予選Aグループを1位で抜けることがすべてだった。グループ1位で予選を抜ければ、一発勝負の準々決勝(五輪出場決定戦)では日本より格下のBグループ2位のアンゴラと戦う組み合わせだったからだ。しかし、日本は予選リーグでセネガルに辛勝したあと、ラトビアに終盤失速して1勝1敗でAグループ2位。準々決勝ではアテネ五輪5位の強豪・チェコと対戦して敗れ、準決勝(敗者復活トーナメント)でキューバに力尽きた。もしキューバに勝ったとしても、逆ブロックから勝ち上がってきたブラジルをも倒さなければならない茨の道が待っていた。
だが、予選リーグで2位になったからといって、まったく五輪への芽がなかったわけではない。チェコには一時7点差、キューバには終盤1点差まで迫るなど勝機はあったが、その機会を逸したのは、ミスによる“自滅”からだった。とにかく、日本は大会を通じてターンオーバー(オフェンスが、ミスやバイオレーションによってボールの保持を失うこと)が多かった。
日本が戦った4試合で犯したターンオーバー「70」はあまりにも多い(対戦相手のターンオーバー計は54)。ターンオーバーから与えてしまった得点は42点(日本が相手のターンオーバーから得点したのは12点)。オフェンス・リバウンドなどによるセカンドチャンスで与えた得点は49点(日本は7点)。日本の武器であるファーストブレイクに関しては日本が28点に対し、対戦相手は55点と圧倒的な差。生命線である3Pシュートは29.1%という低さに終わった。セネガル戦ではターンオーバー20を記録。3Q残り4分に14点あったリードが、最終的には1ゴール差まで迫られる寿命が縮むようなゲームをしている。特に、流れに乗ってきた時にトラベリング、パスミスといった初歩的なミスが響いた。
敗因は一つのチームになり切れなかったこと
強化合宿が始まったのは4月からで強化期間は正味2カ月。選考が長引いたために12人が決定したのは大会3週間前と、コンビネーションを合わせるには時間が少なすぎることが影響した。昨年のアジア予選をこのメンバー構成で臨んでいたのならばいざ知らず、アジア予選から半分の選手が入れ替わっている。急造チームは連携ミスから崩れていった。
また、司令塔である大神雄子(フェニックス・マーキュリー)の不在期間も響いた。内海ヘッドコーチ(HC)は昨年から自チームJOMOでポイントガードを務める大神を代表の絶対的司令塔としてきたが、その大神が大会前にWNBA(アメリカ女子プロリーグ)に挑戦。5月18日の開幕からロスター入りする快挙を果たし、リーグを一時中断して五輪予選に臨んでいた。大神が代表に合流したのは一次合宿の10日間と、大会直前の一週間のみだったが、それでも、内海HCは“懐刀”である大神の存在を信じていた。
しかし、机上の空論で進められたチームでは、どこの国も死に物狂いで挑む五輪予選という戦場では通用しなかった。メイン司令塔に相澤優子(シャンソン化粧品)、控えに吉田亜沙美(JOMO)を置いて2カ月間チームを創ってきた日本は、大会直前にきて大神がスタメンに抜てきされることで、微妙にバランスを崩していくことになる。内海HCが求めたのは、ガード大神、フォワード矢野、センター小磯のラインを生かしたバスケットだったが、現にこの3人を軸としてチーム創りを行っていないために、3人が同時に機能した試合は1試合もなく、相澤、矢代直美(日本航空)、石川幸子(シャンソン化粧品)、吉田といった控え組が試合の中盤を粘って、善戦に持ち込んだ印象が強い。
大神自身は、WNBAから勢いを持ってくる覚悟で五輪予選に臨んでいたが、現実にはWNBAと日本のバスケの切り替えに苦しんだ。WNBAではパッサーとして起用されているために、シュートタッチが戻ってきたのは3試合目のチェコ戦からと乗り遅れた。
「一つのミスをしないとか、1本のリバウンドを取るとか、些細で当たり前のことができなかったことが原因」――とキャプテンの相澤はチームの噛み合わなさを表現した。その些細なことを徹底することが、日本の緻密なバスケにつながる。女子における繊細なまでのチーム創りの認識を、指揮官が見極められなかった残念な結果だ。