高い代償の先に見えた今後への道=女子バスケット・北京五輪世界最終予選 総括

小永吉陽子

ベテラン選手の招集とスカウティングは成功

 チームの約束事を徹底できずに勝ち切れなかった日本と、きっちり勝利に結びつけた欧米勢との間には確かに差があった。だが、欧米勢相手にまったく戦えなかったと言えばそうではない。昨年のアジア予選で、勝負所で崩れたことを思えば、今大会はそれよりも一段階上のレベルで手応えを感じる試合ばかりだった。小磯のインサイドでの得点力、矢野がラトビア戦で見せた3Pシュート、相澤の要所を締める働き、攻守に強い体を生かした石川など、国際大会やWリーグで実績を残している選手の招集は、2カ月という短期間にもかかわらず成功と言えた。彼女たちが持つ“経験値”がチーム力を上げたのだ。
 また、対戦相手のスカウティングはほぼ完ぺきだった。昨夏、萩原アシスタントコーチがヨーロッパ選手権に出向き、欧州勢の特徴を完全に把握し、キューバに対しても大会に入ってから綿密なスカウティングを行った。ラトビアには83点を献上したが、やられたのは4Q以降。チェコには76点、キューバには66点と戦える範囲内に抑えた。スタッツ上の数字では圧倒的に負けているのに、ここまで戦えたのはディフェンスで粘れたからだ。
ただし、相手が仕掛けてきてからのオフェンスには問題があった。日本よりもスタメン平均身長が13cmも高いチェコには、1Qこそ機動力でかき回すことができたが、2Qにチェコが2人のセンターを下げて外回りの機動力を加えると、徐々に脚が止まって対応ができなくなった。そのうち、高さへのコンタクトがボディブローのように効いてきて、主力がスタミナを消耗していったのだ。

極論を言えば、日本はフィジカル面から鍛え直すべき

 今大会の敗因は何度も言うように、チームの連携不足だったことに尽きる。だが、それだけで片付けてしまってはこれまでと同じ過ちを繰り返すことになってしまう。内海HCは大会終了後「外国人の高さや身体能力は予想以上にタフ。スタミナと体の強さをもっと身につけなければならない」と総括した。男女ともに国際大会のたびに聞くこの言葉を、今度こそ見逃してはならない。極論を言えば、今大会の日本はお家芸である“3Pシュートの国”でも“スピードと速攻の国”でもなかった。露呈したのは3Pの確率29.1%という低さと、高さのコンタクトに負けて失速したスタミナ不足とフィジカル面の弱さだ。

 現に、トレーニングキャンプを含めて2カ月近くWNBAを経験した大神はスポーツナビのインタビューでこう答えている(6月3日更新のコラム参照)。
「海外の選手の当たりの強さはある程度スピードでかわせると思ったけれど、思った以上に当たりが強かった。でも、接触のしかたによってはファウルをもらうことだってできるし、日本人はもっと体幹を鍛えなきゃいけないことなど、実際にやってみてわかったことがたくさんある。そしてこれらは日本に伝えていかなければならないこと」
 今後、大神がアメリカで得てくる身体接触の感覚こそが、日本の基準にならなければ国際大会で勝つことはできない。海外との戦いは当たりの強さを理解したうえで“経験や慣れ”がモノを言う。
 たとえば、183cmの小磯は、粗いプレーをするセネガル相手にうまくファウルをもらい、確実にフリースローにつなげたし(11本中10本成功)、チェコ戦では197cmのセンター相手に離れたところからフックシュートで勝負ができた。矢野はラトビア戦でマークが厳しくとも、相手とズレを作って一瞬の隙から3Pシュートを打ち続けた(12本中6本成功)。これは国際試合の豊富さと、海外選手の手足の長さや身体能力の高さをよく理解していたからこそ、通用した技だ。しかしこの2人とて、キューバ戦の勝負したい時間帯に連戦からくる疲労でバテてしまったことを考えれば、12人全員が戦力となるように、フィジカル強化は必要不可欠なのだ。

 北京五輪予選はもう二度と帰ってはこない。だが、来年には世界選手権予選、3年後には五輪予選が再びやってくる。今回、悔し涙に暮れた大神はみずからWNBAへの扉をこじ開けに行った。だから、“世界基準”のバスケットボールを日本に持って帰ってくる使命があるし、日本としてもその勇気を認めて、受け入れる準備をしなければならない。
 強化の立場も同じ。日本が世界とどう戦うべきか明確なチームコンセプトを日本協会が打ち出し、真正面から強化に取り組む時期はとっくに訪れている。その方針に従って育成できるヘッドコーチの招聘から始め、フィジカル強化という原点から見つめ直し、海外との連携を密に図ることから再スタートしなければならない。現在のように、日本協会が戦う体制も将来のビジョンもない中で、コーチングスタッフや選手たちだけが苦労している状況はあまりに酷すぎる。今大会は国内ベストメンバーをそろえた上で、長所も短所もさらけ出し、さまざまな面が検証できた大会になった。彼女たちが流した悔し涙とあまりにも大きな代償を、今後に生かしていかなければ日本のバスケットは何も変わらない。

<了>

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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