入江陵介、世界一美しいフォームを武器にメダルを狙う=ハギトモの北京五輪注目スイマー

萩原智子

芸術品のような美しいフォーム

世界一美しいと称されるフォームを武器に、大舞台での飛躍を誓う入江 【Photo:北村大樹/アフロスポーツ】

 200m背泳ぎで、見事、初の五輪代表権を獲得した18歳の入江陵介選手。今シーズン、世界ランキングでも4位(2008年6月5日現在)と好位置にランクしています。競泳日本代表チームの中で、男子最年少であり、今最も注目される若手スイマーです。

 私が入江選手に注目したのは、約3年前――2005年の春、東京・辰巳国際水泳場で行われたジュニア五輪の大会でした。注目した理由は、彼の泳ぎにありました。その泳ぎを見た瞬間、驚きのあまり、思わず立ち上がり、「うわっ、きれいな泳ぎ! いいなぁ〜」と呟いたのを鮮明に覚えています。

 彼のフォームは、泳いでいる時のボディーポジションが高く(水面に対して、体の位置が高い)、顔、胸、腰が浮かび上がり、水しぶきが上がらず、体に水がかからないのです。さらに体の軸が全くブレない、まさに、芸術品!
 体の軸がブレず、ボディーポジションが高いということは、無駄がない泳ぎとも言えます。つまりそれは、抵抗の少ない泳ぎですから、無駄な力を使わずに泳ぐことができ、最後の最後にラストスパートをする際、その温存した力を発揮できるメリットがある“省エネ泳法”と言えます。

 初めて言葉を交わした時、「きれいな泳ぎだね」と声を掛けると、彼は恥ずかしそうにはにかみ、「ありがとうございます」と応じてくれました。その時に感じた、彼の聡明さ、素直さ、強さ、誠実さ、優しさ――それらは、トップアスリートとして必要な「心」の部分を兼ね備えている印象をもちました。
 入江選手は年々、力強さを増し、芸術品ともいえる泳ぎにも磨きがかかり、順調にジュニアからシニアへの階段を駆け上がっています。そして今年、夢の舞台であった北京五輪の代表権を勝ち取ったのです。

地獄と天国を味わった経験

 しかし北京五輪代表になるまで、すべてが順調だったわけではありません。入江選手が、初めて日本代表になったのは、2006年にカナダ・ビクトリアで開催されたパンパシフィック水泳選手権。翌年に行われる世界選手権(オーストラリア・メルボルン)の代表選考も兼ねていたこの大会で、大きな挫折を味わいました。世界選手権の代表になるためには、派遣標準記録IIの突破が絶対条件でした。しかし、入江選手は実力を兼ね備えていながら、その記録を突破することができず、世界選手権への道は絶たれました。その直後、人目をはばからず、大粒の涙を流す彼の姿がありました。一生懸命に目指していたからこそ流れる悔し涙。しかしこの悔し涙で、またひとつ成長したのです。「二度と、こんな悔しい思いはしたくない」と胸に誓ったと言います。

 その悔しさをパワーに変え、実力を発揮したのが、同年12月に行われたドーハ・アジア大会。彼は、200m背泳ぎで日本高校記録となる自己記録をマークし、金メダルを獲得。どん底からはい上がり、喜びを手にしました。
 この地獄と天国を味わった経験を生かし、その後、北京五輪代表へとたどり着きました。「あの悔しさを経験していなかったら、今の自分はなかったと思う」と冷静に分析している入江選手。悔しい経験こそが、現在、彼を支える原点でもあるのです。

 この経験をスタートとし、彼はその後、ステップアップを果たします。この3年間で自己記録を約6秒も更新。今年1月には、日本記録保持者となり、背泳ぎの第一人者へと成長しました。

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著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

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