バレー全日本男子、勝利のキーワードは「迷いの払拭」

小林敦

守備面でも健闘した石島。イタリア戦での逆転負けに肩を落としたが、イラン戦では、理想のチームスタイルで勝利をつかんだ 【坂本清】

 バレーボールの北京五輪世界男子最終予選兼アジア大陸予選が5月31日、東京体育館で開幕し、日本はイタリアとの開幕戦で2−3(20-25、30-28、30-28、33-35、7-15)の逆転負け、続くイラン戦では3−1(25-19、25-17、23-25、25-22)で勝利し、第2戦を終えた時点で1勝1敗の4位につけた。
 最終予選は8チームの総当たりリーグ戦で争われ、全体の1位とそれ以外のアジア勢最上位が五輪に進む。

1点の重み

<図1>イタリア戦先発メンバー 【スポーツナビ】

 開幕戦となったイタリア戦は非常に悔いの残る1戦となってしまいました。今大会の実力ナンバーワンと呼び声の高いイタリアを24−17のマッチポイントまで追い込みながら、まさかの逆転負け。現行の得点方式(ラリーポイント制)の採用以降、7点差のマッチポイントを逆転されての敗戦を目にしたのは初めての経験です。ただし敗戦には敗戦の原因があることは確かですから、それを招いてしまった原因を独自の視点で分析してみたいと思います。

 両チームのスターティングメンバーは図1のとおりです。あえて石島雄介選手を守備的WSとしたのは、相手のジャンプフローターサーブ(基本的に2枚レセプション=サーブレシーブ対応)に対して前衛後衛にかかわらず全てのレセプションに参加していたからです。対するイタリアの9番マッテオ・マルティーノ選手も同様です。
 基本となるシステム(分業制布陣)では攻撃的WSはジャンプフローターサーブのレセプションを免除されて攻撃に集中し、守備的WSは全てのサーブレセプションに参加し攻撃よりも守備を重要視します。ジャンプサーブをレセプションする場合は攻撃的WSもレセプションに参加しなくてはならないため、ジャンプサーバーを数多く配置するチームは、サーブを攻撃的WSに集める戦術を立てることにより試合を優位に進めようと試みます。攻撃的WSはサーブレセプションを狙われることによって攻撃にまで悪影響を及ぼすケースが多く見られるからです。

 1セット目は序盤から日本の攻撃的WS越川優選手が相手ジャンプサーブで狙われて、苦しい展開となってしまいました。レセプションでプレッシャーをかけられた越川選手は攻撃の歯車も狂わされ簡単にセットを奪われてしまいました。続く2セット目、3セット目は日本がイタリアの攻撃的WS11番フリスト・ズラタノフ選手を執拗(しつよう)にサーブで攻めた結果、終盤までもつれる展開に持ち込むことに成功しました。さらに、途中出場した齋藤信治選手のジャンプフローターサーブをリベロに拾わせ、ディフェンスの的を絞りやすくする戦術も効果的に機能し、接戦ながら2セットを連取しました。
 そして問題の4セット目、日本が接戦で2セットを連取した勢いも手伝って、8−6のリードでテクニカルタイムアウトを迎えます。

 そしてタイムアウト後、イタリアが動きを見せました。
 セッター5番バレリオ・ベルミリオ選手(ジャンプサーブ)に代え、6番マルコ・メオーニ選手(ジャンプフローターサーブ)を投入したのです。そして8−7で迎えたメオーニ選手のジャンプフローターサーブの時に石島選手のレセプションが乱されて、あっという間に8−10のビハインドとなります。すぐさま日本もタイムアウトを取り戦術の確認をしたようです。
 コートに戻った日本の選手に動きがありました。石島選手に代わり越川選手がジャンプフローターサーブのレセプションに参加していたのです。その後の全てのレセプションに越川選手が参加し始めました。それを見たイタリアは9番マルティーノ選手(ジャンピングサーブ)に代え、7番アレッサンドロ・パパローニ選手(ジャンプフローターサーブ)を投入し、執拗に越川選手をサーブで攻める戦術に切り替えました。
 しかし、越川選手のレセプションは乱されることなく、日本の攻撃が面白いように決まりました。その結果24−17という大量リードでマッチポイントを迎えることができました。ところが、相手にサイドアウトを奪われた後の24−18から、コンビミスが1本出現し24−19、そして立て続けに15番エマヌエーレ・ビラレッリ選手のジャンプフローターサーブにレセプションを乱され、浮き足立つチームは、あっという間に同点に追いつかれてしまいました。その後粘りを見せながらもこのセットを逆転で奪われ、続くファイナルセットも力つき敗れてしまいました。

チームの迷い

 この試合の敗因を一つに絞るという作業は不可能だと思いますが、私自身の考える1番の敗因は「チームの迷い」だったと感じています。

 まずこの試合のスパイク決定率とレセプション成功率を見てください。

<スパイク決定率>
[日本] 山本47.37%、越川55.26%、石島32.00%
[イタリア] フェイ56.41%、ズラタノフ55.00%、マルティーノ38.10%

<レセプション成功率>
[日本] 石島57.89%、越川45.45%
[イタリア] マルティーノ53.85%、ズラタノフ41.38%

 この結果を見る限り、両チームとも攻撃的WS及び守備的WSがそれぞれの役割を全うしていた事が判断できるかと思います。

 開幕前は越川選手、石島選手がレセプションを分担する2枚の攻撃的WSスタイル(超攻撃的布陣)を予想していたのですが、この日の試合は石島選手を守備的WSに配置するスタイル(分業制的布陣)として戦っていました。そして攻撃力も期待できる石島選手はこの日、守備的WSとして十分な働きを見せてくれていました。
 しかし日本は4セット目8−10から、越川選手を守備的WS、石島選手を攻撃的WSに切り替えて戦っていたのです。越川選手のポテンシャルの高さから、守備的WSでありながら攻撃でも大きな貢献を見せていたため、チームは大量リードを奪うことに成功し、そしてそこには迷いはなかったのだと思います。しかし24−19で越川選手のレセプションが乱れたところでチームが迷ったように感じます。その迷いがあらゆるプレーへの負の連鎖を呼び起こし、歯止めが利かなくなったように見えました。最終的にはこの日のチームスタイルを崩してしまった結果がボディーブローのように効いて敗戦を生む結果となってしまったのだと思います。
 マッチポイント7点差を一気に追いつかれ逆転されるという経験をしたチームは、1点の重みと最終予選という大きなプレッシャーを感じながら、負けられないゲームを続けていくしかないのです。

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著者プロフィール

深谷高校、筑波大学を卒業後、東レアローズへ入部。2000年5月〜05年5月までキャプテンを務め、05年3月にVリーグ初制覇。また、04年のアテネ五輪最終予選では全日本男子のキャプテンも務めた。06年5月の第55回黒鷲旗優勝を最後に現役引退。現在は東レアローズコーチ。

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