欲しいけれども、手に入らない=北京五輪チケット事情

朝倉浩之

五輪チケット欲しさに、戸籍を変更!?

チケット販売の時は、中国銀行の中だけで行列が収まりきらず、外にも長い列ができた 【朝倉浩之】

「北京生まれ、北京育ち。祖国をこんなに愛する僕。でもなぜか買えない五輪チケット」
あるブログで見つけた北京の若者の言葉だ。

 昨年4月15日の第1次予約から始まった五輪チケットの「争奪戦」は、さまざまなトラブルを経て、終盤戦を迎えようとしている。第2次予約ではシステムダウンによる予約中止など、販売側の“失態”があった。また第3次予約は、中国全土から、銀行の販売窓口に購入希望者が殺到。銀行側は整理券を配るなどの対応で何とか乗り切ろうとしたが、朝から夕方まで並ばされた市民から不満が爆発し、またも販売側の思慮のなさが露呈した結果となった。

 まさに中国全土で繰り広げられた「チケットフィーバー」だった。予約開始の3日前から、窓口のある銀行前でテントを張る人が出たし、銀行をぐるぐると何重にも囲む行列ができ、やっとの思いで窓口に達したものの、システムが稼動せず、結局チケットを買えないなどという人もいた。

 また、「開催地の北京市民には、多めにチケットを販売する」(組織委員会事務局長)との発言を受け、チケット獲得のために、莫大なお金を払って、地方戸籍から北京戸籍に変える人も出た。ちなみに、中国では戸籍制度が厳格に管理されており、特に地方から都市に戸籍を移すことは非常に難しい。

 さて、ここまで涙ぐましい努力の結果が実らず、結局チケットを手に入れられなかった前述の若者のような市民もまだまだ多い。彼らは指をくわえて見ているしかないのか。いや、次なる手段は「転売」である。

「転売は合法」。しかし、その実態は……

「チケット転売」に関して、北京五輪組織委員会の見解は「基本的には合法」としている。開閉幕式については、「実名登録制」を取っており、規定の手続きを経て1回のみ転売が許されているが、それ以外のチケットは今のところ、特に規定はない。「極端な価格の上乗せをしてはならない」とはいうが、あくまで常識の範囲内で、ということのようだ。

 だがネット上でのチケット売買は、少々過熱気味だ。ある個人取引の大手サイトは「五輪チケット」専門のコーナーを開設。転売者はその旨を掲示板に書き込み、購入希望者が電話などで連絡を取り、価格が合えば販売するという仕組みだが、今は連日、数百件以上の書き込みがある。価格は明示していない場合が多く、ほとんどが「面談の上」となっているのは警察からの摘発を恐れてのことかもしれない。

 筆者はそのうちの一つ、「110m障害」の劉翔が出場する陸上決勝チケットを持つという人に連絡を取ってみた。外国人だと分かると価格が変わる可能性があるので、中国人の友人に電話を依頼。書き込み自体は一般の個人を装っているが、受話器の向こうから聞こえてくる男性の口ぶりは明らかに売買に慣れた様子だ。警察の摘発も厳しくなっており、向こうも警戒しているのか、しばらくは価格を言わず、探りを入れてきた。そしてこちらが全くの個人客だと安心したところで、彼は「2万元(30万円)」という価格を提示してきた。正規価格(400元・約6000円)の約50倍だ。「高すぎる」というと「劉翔の金メダルを見られるんだ。高くはないだろう」と勝ち誇ったように言う。

 実は、このサイトで表示されているいくつかの連絡先に電話してみたが、ほとんどが聞いて分かる「プロ」の転売屋、いわゆる“ダフ屋”のようだ。チケット販売が公開で行われているのをいいことに、こういった職業的なチケット業者が大量にチケットを買い占めているという実情がうかがえる。もちろん職業的な転売は違法。また、多くの「ニセモノ」が混じっていると言われており、日本の皆さんも注意していただきたい。

最後の望みは競技場での当日券

 では、“合法的”な形で、北京五輪を観戦するにはどうすればいいか。

 チケット販売担当の責任者によると、大会期間中、競技場でも一部チケットを販売する可能性があるとしている。すでに販売可能なチケット700万枚のうちほとんどは販売・配分を終えているが、売れ残った場合や何らかの事情でチケットが売れなかった場合に大会当日も発売するということだ。どの程度の規模で発売されるか、また本当に発売されるのかを含めて、まだ不透明だが、個人客として訪れることも不可能ではないということである。またチケットの転売自体は、開閉幕式を除いて違法ではないので、中国語に自信のある人は転売サイトなどをのぞいてみるのもいいだろう。ただし、先ほど触れたように中国は「ニセモノ王国」であることをお忘れなく。

 もう一つの楽しみ方もある。実は北京には在住日本人によって組織される「北京五輪を応援する会」という組織がある。その企画として、チケットが必要ない男女マラソンを一緒に応援しようという企画などが予定されている。選手が最も苦しいと言われる35キロ付近で日本応援団が大集結しようというもの。また期間中は、パブリックビューのような催しも企画されており、もし競技場に入れなくても、現地の日本人とともに、北京の熱気を感じながら、日本人選手を応援するというのも楽しいのではないか。

 それにしても13億人を相手にしたチケット販売は壮絶だった。そして、正規のチケット販売が一段落したものの、まだチケットのない中国人、特に地元・北京の人たちにとっては、どうしても欲しいチケットをどうやって手に入れるかが「切実な」問題となる。

<了>
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著者プロフィール

奈良県出身。1999年、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。2003年、中国留学をきっかけに退社。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする各種ラジオ番組などにも出演している。

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