7強時代到来か=07-08シーズン リーガ・エスパニョーラ展望
セビージャ「補強は合格点も、アウベス離脱の不安が残る」
ダニエウ・アウベスの移籍騒動をめぐってはセビージャらしくない面が見える。移籍が決定した場合、その穴を埋めるのは難しいだろう 【 (C)Getty Images/AFLO】
デ・サンクティス、ブラルース、モスケラ、セイドゥ・ケイタ、デ・ムル
【主な放出・退団選手】
コベーニョ、ダビド、アイトール・オシオ、ケパ
【フロント評価:80点】
今夏もセビージャらしく、お金をかけることなく充実したスカウト網や巧みな交渉術を生かして、将来性あるケイタ、デ・ムルのような若手を安い金額で手に入れた。また、デ・サンクティス、ブラルースのような実績ある選手を移籍金なしか期限付き移籍で獲得している。今夏の移籍市場で投じた合計金額1700万ユーロ(約27億円)は、リーガで8位(8月22日時点)。これは、昨年のクラブ予算規模で3分の1以下のヘタフェよりも少ない数字である。この数字こそが、モンチSD体制のフロントの有能さを物語っているといえよう。
適材適所の補強やU−20ワールドカップでも活躍したカペル、ファツィオといったBチームからの昇格選手でチーム力は着実にアップしており、初挑戦となるチャンピオンズリーグ(CL)との掛け持ちも可能な選手層も保持している。
唯一、ダニエウ・アウベスのケースではセビージャらしくない面が目に付いた。これまでレジェス、セルヒオ・ラモス、バチスタら主力選手でも高値が付けばあっさり放出してきたセビージャだが、今季はCL出場のために戦力ダウンを避けたい思惑もあってか、アウベス売却のタイミングを誤った感がある。もし本人の希望通りチェルシーやほかのビッグクラブへの移籍が決まれば、大きな痛手となるだろう。
また、ファンデ・ラモス監督が最後のシーズンとなることも規定路線となっている。19日にはR・マドリーに勝利してスペイン・スーパーカップのタイトルを手にし、同監督の下、2シーズンで5つ目のタイトルを獲得したセビージャ。だが、契約延長交渉はまとまっておらず、地元メディアは来季の契約に関してファンデ・ラモス監督がトッテナムとコンタクトしていると報じている。評価の高いセビージャのフロントとはいえ、アウベス、ファンデ・ラモス監督の去就問題に関しては、中堅クラブからビッグクラブへの脱却の難しさも垣間見せている。
バレンシア「フロント交代で補強は出遅れ。一方でけが人復帰でチーム力はアップ」
ヒルデブラント、アレクシス、エルゲラ、カネイラ、サニー・ステファン、マタ、アリスメンディ、ジギッチ
【主な放出・退団選手】
クーロ・トーレス、ダビド・ナバーロ、アジャラ、ウーゴ・ビアナ、ホルヘ・ロペス、タバーノ
【構想外】
フィオーレ
【フロント評価:60点】
バレンシアは昨シーズン終了後、キケ監督と不仲だったカルボーニSDを解任し、A・マドリーで長年フロント職を務めたミゲル・アンヘル・ルイス氏を招へい。この交代の影響もあって、今夏の移籍市場では完全に出遅れ、交渉での強引な手法や獲得失敗が目立つ結果となっている。
ラウル・ガルシア、スナイデル、ルチョ・ゴンサレス、シェルストレム、ファン・デル・ファールトと、次々にターゲットが変わる攻撃的MFの補強はいまだ決まらず(8月22日時点)、迷走するルイスSD体制には地元から非難の声も挙がっているが、現時点で落第点を付けるのは時期尚早だろう。継続性あるスカウティングや交渉に加え、フロントの仕事を評価する上で何より必要なのは時間なのだから。
ただし、移籍市場での出遅れによってスムーズにビッグネームが取れないと判断したルイスSDは「今抱える選手が最高の選手たち」との方針を打ち出し、交渉が難航していたアルベルダやバラハ、シルバといった主力選手の契約延長を素早く決めた。プレミアリーグからのオファーがうわさされたエースのビジャも残留。主力選手の放出がなかったことに加え、昨季はけがで貢献できなかったバラハ、ビセンテといった選手が復調しており、チーム力は確実にアップしている。
アジャラの退団でDFを不安視する声も聞こえていたが、アレクシス、エルゲラが加入し、一度は構想外となっていたデル・オルノもキケ監督からもう1度チャンスをもらえることになった。R・マドリー、バルセロナのような補強予算もなく、フロント一新によって移籍市場で後手に回ったことが、結果的に在籍選手の価値やチームの継続性を高めている。フロントの動きが目立たないことが、かえって功を奏しているといえる。
積極的な補強で戦力充実のUEFAカップ圏内3チーム。大型補強のA・マドリーに注目
ディエゴ・ロペス、ゴディン、カプデビラ、マブバ、カソルラ、ロッシ
【フロント評価:50点】
【サラゴサの主な加入選手】
アジャラ、パレデス、パボン、ガビ、マトゥザレム、オリベイラ
【フロント評価:70点】
【A・マドリーの主な加入選手】
アッビアーティ、ラウル・ガルシア、レジェス、シモン、ルイス・ガルシア、フォルラン
【フロント評価:90点】
昨シーズン5〜7位でUEFAカップに出場する3チームは、派手な補強が目に付いた。選手層や戦力バランスから見てリーガとUEFAカップの掛け持ちが十分可能で、3チームすべてにCL出場権争いはもちろん、優勝争いも絡める可能性があるといえるだろう。
ビジャレアルは代表クラスの実績ある選手を補強したとはいえ、アジャラ、ホセ・エンリケ、フォルランとあっさり主力を放出し、さらにリケルメも構想外のたため、見方によっては戦力ダウンともいえる。特にDFに不安が残り、センターバックと左サイドバックは駒不足。前線には実力派の選手を多くそろえるが、アジャラ、フォルランと攻守で世界レベルの2人を放出した影響は大きいだろう。
サラゴサはガブリエル・ミリートを放出したものの、その売却資金を有効に使いアジャラら実力ある選手をうまく補強した。DFにはアジャラ以外にパボン、パレデスが加わり、昨年層が薄かった中盤にガビ、マトゥザレム、前線にはリーガでの実績もあるオリベイラを獲得し、選手層の点で一回り大きくなったと言える。
A・マドリーはフェルナンド・トーレスを放出したが、選手補強にバルセロナをも抜く(8月22日時点)7800万ユーロ(約122億円)もの資金を投じ大型補強を敢行。特にフォルラン、シモン、レジェスと攻撃陣の補強は魅力的で、前線にボールを配給できるラウル・ガルシアのようなボランチも獲得している。これだけの大金を使ったのだから良い補強ができて当然という考えもあるだろうが、移籍市場での動き出しが早く、交渉もスピーディーに行っていたため1人の選手に異常な金額を投じることなく、許容範囲内(適正価格)での獲得が実現できている。使った金額ではなく、そういったフロントの仕事ぶりに高評価を与えたい。