7強時代到来か=07-08シーズン リーガ・エスパニョーラ展望

小澤一郎

タイトル争いの鍵はローテーション

スペイン代表を多く抱えるバレンシア。負傷者が戻ってきた今季は、タイトルを狙えるチーム力を誇る 【 (C)Getty Images/AFLO】

 今シーズンのタイトル争いの鍵は各チームの監督が使うローテーション(スペインではターンオーバーではなく「ロタシオン(=ローテーション)」という言葉を使う)になるだろう。来年にユーロ2008(欧州選手権)が開催されるため、シーズン終了は5月中旬。昨シーズンはのん気に6月中旬まで試合があったが、今季は約1カ月日程が縮まることになる。当然、その分平日開催の試合も多くなり、欧州カップ戦、国王杯を含めて3大会(主力選手はその合間に代表戦)を戦う上位陣にとっては、週2試合ペースが当たり前となってくる。
 過密日程を乗り切るためにも、均衡したレベルで2チーム分作れる戦力を抱えることが優勝争いをする上では必要となってくるが、そうした意味で優勝候補と呼べるのがR・マドリー、バルセロナ、セビージャ、バレンシア、A・マドリーの5チーム。普通に考えればR・マドリー、バルセロナの2強にその他中堅クラブが追随する例年通りの構図が浮かんでくるが、私の予想と期待は2強のマッチレースではなく、上記5チームを軸にビジャレアル、サラゴサを含めた上位7チームの激しい上位争いだ。シーズン終盤には優勝争いが2、3チームに絞られる可能性はあるが、CL圏内争いはし烈を極めるだろうし、昨年のUEFAカップでスペイン勢が活躍したように、リーガ中位のクラブと上位クラブは資金力の差こそあれ、実力差は紙一重。R・マドリー、バルセロナがベストな布陣を組んだ時には世界規模でみても豪華な顔ぶれとなるが、逆にその顔ぶれが突出するあまり、うまくローテーションを組めない可能性もあり、他チームが付け入るすきは十分ある。

セビージャ、バレンシアに期待する理由

 優勝候補に挙げた5チームの中でも、特にセビージャ、バレンシアの2チームには期待したい。既にここ2年、ローテーションを使って結果を出しているファンデ・ラモス監督のセビージャ、けが人さえなければベンチに代表クラスの選手が並ぶバレンシア共に昨季ベースの主力に補強選手で肉付けをした良いチームに仕上がっている。最近の日本でも流行している「ポリバレントな選手」が多く、対戦相手や試合の状況によって柔軟に戦術、システムを変えてくる。
 R・マドリー、バルセロナといったチームは国内外で常に立場が上になるため、横綱相撲を取ってもいいが、セビージャやバレンシアはそうはいかない。自分たちのスタイルを持ちながらも、対戦相手や試合状況に応じて戦術、システムを微調整していく必要があり、彼らにはそれを実行できるだけの組織力がある。それはアジアと世界で戦い方を変えなければいけない日本のサッカーにとっても、十分参考になるだろう。

 また、両クラブ共に経済面で世界的なビッグネームを獲得できないことから、選手育成に力を入れている。そこで育った生え抜き選手が地元のスターになっているのは、今のサッカー界の中では良い模範となるだろう。世界的に見ればセビージャのヘスス・ナバス、バレンシアのアルベルダは、ベッカムやロナウジーニョのような世界的な人気はないが、地元では絶大な人気を誇る。
 欧州のビッグクラブがお金の落ちるマーケットを求め外国へ拡大傾向にある中、背伸びすることなく地元出身の選手を基盤に地元ファンに愛されるクラブ経営をしている。こうすることで、結果的に、地元以外のファンからも愛されるクラブにもなっていくのではないだろうか。

 昨シーズンも終盤までこの2チームは優勝争いに加わったが、最後はやはりR・マドリー、バルセロナのマッチレースとなった。今シーズンこそは、この2チームが主役となり、R・マドリー、バルセロナにはないリーガやスペインサッカーの魅力を発信してもらいたい。もちろん、バレンシア在住の私の一押しはバレンシア。スペイン代表選手を多く抱えるバレンシアが良い結果を残すことは、シーズン終了後にあるユーロ2008のスペイン代表の活躍にもつながると信じている。

 最後に1つ。昨年リーガで続出したようなけが人(特にひざの十字じん帯のけが)がなるべく出ないことを願いたい。選手たちがけがなくシーズンを終えてくれれば、必ずやファンを魅了するスペクタクルなシーズンとなるであろう。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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